(C)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『ターミネーター』はなぜ古びない?時代を超越する「恐怖」と「構成力」
サラ・コナーの「無理のない」成長
T-800に狙われる主人公サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)もまた、敵に呼応して変化していく。冒頭ではレストランで働くごく普通の女性だが、救世主の未来の母親であるという運命を受け入れ、精神的にタフに成長。彼女のシーンでいうと、75分過ぎから用意されている濃厚なベッドシーンは、1つのターニングポイントだ。その行為を境に、ただ「逃げる」だけでなく、生きようとする「信念」が彼女の中で強固なものへと変わっていく。
サラを輝かせるアイテムとしては、「電話帳」も興味深い。T-800は電話帳で「サラ・コナー」の名前を調べ、リストの上から殺害していく。故に巷では「電話帳殺人」などと騒がれ、サラは「次は自分の番」とおびえる。このシチュエーションは、「自分が同じ目にあったら……」と観客にイメージを喚起させやすく、これがあることで「サラは自分たちと同じ一般人」という意識がより強まる。
『ターミネーター』(C)2015 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
また、サラは勤務先のレストランでは注文を覚えられず、料理を客にかけてしまい、ボーイフレンドにも袖にされ“華金”を独りで過ごすなど、全体的に冴えないキャラクターとして描かれる。T-800との直接対決においても、基本的には「逃げる」が最優先だ。ただ、実に見事なのは、サラのミッションは「生きる」にあるということ。生き延びて、救世主を産まなくてはならない。最初からT-800を「倒す」のが目的ではないから、逃亡行為が許される。観客から嫌われることのない状況を作り出す、設定の妙だ。
ジェームズ・キャメロン監督作品でいえば『トゥルーライズ』(94)のヘレン(ジェイミー・リー・カーティス)、近年の映画であれば、たとえば『サプライズ』(11)や『キャプテン・マーベル』(19)などヒロインが劇中で“覚醒”する作品も数多く製作されているが、『ターミネーター』の中でのサラの成長は極限状況にあっても緩やかだ(だからこそ、『ターミネーター2』がより輝く)。
あくまで元々の等身大の女性像を大切にし、成長を一段一段積み上げていく。この無理のない変化もまた、多くのファンを生んだ大きな要因といえるだろう。