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劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 後編

(c)Photofest / Getty Images

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 後編

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『スター・トレック』のテーマとは ※注ネタバレ含みます!



※本章は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


 だが、本当にそれだけの映画なのだろうか。実はこの映画は、宇宙における知性の形や、その存在意義を問いかけるという、思弁的なテーマを描いた作品なのだ。


 人類が宇宙で異なる知性とコンタクトする場合、それがヒューマノイドである可能性は極めて低いと考えられる。なぜなら地球の生命体だけを考えても、クジラ、カラス、タコ、粘菌(変形菌)など、何らかの知性を持つと思われる生物の、サイズや形状、生活環境は大きく異なる。これが異なる天体となれば、我々の想像も及ばない姿をしている可能性がある。


 またその知性が、生物である必要性もない。充分に科学が発達すれば、病気や寿命に影響されない機械の身体に移行していくのは当然と考えられるからだ。映画の最後でヴィジャーの正体は、恒星間空間を飛行していたNASAの無人宇宙探査機ボイジャー6号(*10)が機械生命体の星に流れ付き、改造されて進化したものだと明かされる。


 高度な知性を持ったボイジャー6号(ヴィジャー)は、自分が何のために存在しているのかを知るために、クリエーターを求めて地球にやってきた。そして自らが生き残るために、クリエーターと合体することを望んでいる。そしてクリエーターが人間であることを知ると、アイリーア(パーシス・カンバータ)の姿をしたプローブと、デッカー(スティーブン・コリンズ)が合体して消滅する。だがそれは完全に消えたのではなく、光よりも早く移動し、宇宙のどこにでも存在できるようになったのだと暗示させて物語は終わる。


『メッセージ』予告


 最後の展開は非常に謎めいているが、現代的に考えれば”量子もつれ”のような効果すら操れる、超知性体に進化したという解釈が可能だろう。そしてこの先その超知性体は、宇宙に何をもたらすのだろうか…。こういった知的な問いかけはまさしくSFの独擅場であり、映画で言えば『禁断の惑星』(56)、『2001年宇宙の旅』、『惑星ソラリス』(72)、『メッセージ』(16)などの系列に入れられるべき作品ではないだろうか。


*10 現実のボイジャー計画では、1977年に1号と2号が打ち上げられている。そして1号が2012年8月に太陽圏を脱して星間空間に到達し、2018年11月には2号も太陽圏を離脱した。現在は原子力電池の出力が低下してきており、2025年ごろには完全稼働停止になると予想されている。だがそれでも飛行を続け、約4万年後に2号はロス248という赤色矮星から1.7光年以内の所を通過し、6万1,000年後には太陽系の最外縁部であるオールトの雲を通過するはずである。1号は西暦4万472年にグリーゼ445から1.7光年以内の所を通過し、5万6,000年後にオールトの雲から脱出すると計算されている。


【参考文献】

シネフェックス4号, バンダイ (1984 Spring)

DVD 「スター・トレック ディレクターズ・エディション 特別完全版」 パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン (2002)

Memory Alpha

岸川靖 著: 「スタートレック オフィシャルガイド(4) メカニクス」 ぶんか社 (1999)

岸川靖 著: 「スタートレック パラマウント社公認 オフィシャルデータベース」 ぶんか社 (1998)

NADIA DRAKE : “Voyager at 40: Where Will the NASA Spacecraft Go Next?” (DECEMBER 10, 2018)



前編はこちらから

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編



文: 大口孝之 (おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHKスペシャル『スペース・スペクタクル』(19)のストーリーボード。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、早稲田大理工学部、日本電子専門学校、女子美術大学短大などで非常勤講師。



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『スター・トレックI/リマスター版スペシャル・コレクターズ・エディション』

Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

Copyright (C) 1979 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. (C)2010 Paramount Pictures Corporation. STAR TREK and related marks and logos are trademarks of CBS Studios Inc. All Rights Reserved.

※ 2020年1月の情報です。

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