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劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 後編

(c)Photofest / Getty Images

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 後編

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ヴィジャーのデザイン



 RA&Aが参加していたころに描かれたヴィジャーのデザイン画は、筆者が1985年にレーザーディスクの「SFX Museum: CGI in SFX」のライナーノートを手掛けた際に、アートディレクターのリチャード・テイラーから見せてもらったことがある。それは、『海底二万哩』(54)に登場する潜水艦ノーチラス号を、もっと複雑にしたような外観をしていた。トランブルとダイクストラはこの形状を嫌い、まだ映画業界では無名だったシド・ミードをアポジーで雇って新たにデザインさせている。


『海底二万哩』予告


 他にもトランブルは、やたら複雑で長かった“メモリー・ウォール”と呼ばれるヴィジャー内部の描写を大胆に省略した。RA&Aの作業が遅れたのは、スポック(レナード・ニモイ)を追ってエンタープライズの船外に出たカーク船長(ウィリアム・シャトナー)が、ヴィジャーの防御器官に捕らえられてしまうというシークエンスが長くて複雑過ぎ、100万ドルを費やして散々撮影が繰り返されてきたにも係わらず、使える映像(*8)がほとんど無かったことによる。


 そこでトランブルはシナリオや設定を無視し、宇宙画家のロバート・マッコールに依頼して、まったく自由にデザインさせた。そうして上がってきた抽象的なイメージをサクサク見せて行くことで、この場面を短く単純化した。ここまで苦労した一部のスタッフが反対の声を上げたが、公開までのリミットが迫っていた以上、この案で行くしかなかった。


 雲が晴れた状態のヴィジャーは、アポジーにおいてかなり複雑なミニチュア(海洋生物のようなデザインだったそうである)が制作されたが、撮影前に壊れてしまい、修復する時間もなかったため映画には登場していない。(*9)


*8 この映像の一部は、DVD「スター・トレック ディレクターズ・エディション 特別完全版」の特典映像として収録されている。


*9 DVD「スター・トレック ディレクターズ・エディション 特別完全版」では、ファウンデーション・イメージング社が制作したCGで表現された映像が見られる。他にも、カークをのせたシャトルが惑星連邦に到着する場面や、バルカン星の風景、カークらがエンタープライズから下りてヴィジャーへ向う場面などがCGで作り直された。同社はこの作業を手掛けた直後に倒産してしまい、HD素材が得られない原因となっている。



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