【フェーズ4】のキーワード「マルチバース」
少しうがった見方かもしれないが、【フェーズ3】の最終作である『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』の時点で、【フェーズ4】がかなり野心的なものになる予兆はすでに示されていた。というのも、同作の最後で、MCUではない『スパイダーマン』のキャラクターが登場したから。
『スパイダーマン』の実写映画はトビー・マグワイア版、アンドリュー・ガーフィールド版、トム・ホランド版があり、ホランド版がMCUのサイクルに組み込まれているのだが、そこにマグワイア版のキャラクターが介入し、さらに年内公開を予定されている最新作では、ガーフィールド版に登場したエレクトロ(ジェイミー・フォックス)や、マグワイア版に登場したドクター・オクトパス(アルフレッド・モリーナ)が再登場するという。
これらの動きから、【フェーズ4】では他の作品においても「マルチバース」が採用されるのでは?と考えることもできる。マルチバースとは、ざっくり言うとパラレルワールドや並行世界のことだ。MCU作品ではないが、並行世界のスパイダーマンが集結するアニメーション映画『スパイダーマン: スパイダーバース』(18)が好例で、『ドクター・ストレンジ』の新作『Doctor Strange in the Multiverse of Madness(原題)』はタイトルに「マルチバース」の文字がみられる。『ワンダヴィジョン』においても、今後の展開次第で「マルチバース」との関連性が観られる可能性は、十分にあるだろう。
『スパイダーマン: スパイダーバース』予告
また、これは私見ではあるが、ワンダとヴィジョンはMCU全編を通して悲劇のカップルであり、幸せな姿を見たいというファン心からすると、マルチバースが最も適したキャラクターたちといえるかもしれない。もともと彼らは、自分たちが持っている能力に葛藤し続けていた。望まぬスーパーパワーを持ってしまったことへの結論が、ワンダの力でヴィジョンの源であるマインド・ストーンを破壊する、つまり自分たちで運命に決着をつけるというものだったことからみても、決してポジティブな位置づけのヒーローではないのだ(元からヒーローになりたいと思っていたような他のアベンジャーズメンバーとは、考え方がやや異なる)。
1・2話を観ても、そのキャラ付けが丁寧に踏襲されており、ふたりが必死に「普通になりたい」「町に溶け込みたい」と努力し続ける様には、切なさがにじむ。本編では添い遂げられなかったからこそ、マルチバースの中に救いを求める……そんな展開になったとしても、何ら不思議ではない。
とはいえ、毎回ビッグなサプライズを用意しているMCUのことだから、残り7話でとんでもない仕掛けが飛び出す確率も、非常に高いだろう。余談だが、「MARVEL STUDIOS」の文字が踊るタイトルロールを観ただけでも、胸が熱くなってしまったファンは多いのではないか。不測の事態でMCUの新作が観られなかった2020年を乗り越え、ようやく出会うことができた『ワンダヴィジョン』。この先の物語も、楽しみに見届けていこうではないか。
文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema」
ディズニープラス オリジナルドラマシリーズ
『ワンダヴィジョン』1月15日(金) 日米同時配信
(c) 2021 Marvel