自分たちで別れを選び、真のヒーローが誕生する
ワンダの成長が印象的だった『ワンダヴィジョン』だが、もうひとつ非常に重要なテーマを忘れてはならない。それは、彼女がヴィジョンにきちんと別れを告げられたということだ。
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』では、サノスが迫りくる中での別れだった。しかもその後、時間を巻き戻されて殺されてしまい、ワンダの中には無念がずっと残っていたことだろう。ワンダをヒーローとして解き放つため、本作は彼女の胸に残るしこりを解消させるというエモーショナルなドラマを最後に用意している。ワンダとヴィジョンは息子たちを寝かしつけ、抱き合い、キスをして「前にも別れた。だからきっと、また会える」と再会を誓い合ってから旅立つのだ。
『ワンダヴィジョン』© 2021 Marvel
このシーンでは、これまでのシリーズでヴィジョンがずっと抱いていた「自分は何者なのか」という疑問も解消される。「あなたは私の中で今も生きるマインド・ストーンの欠片。私が作り上げた通信回路と血と骨の集合体よ。私の悲しみであり、希望なの。何より愛する存在よ」というワンダの言葉で、ヴィジョンもまた、自らの存在意義を認め、静かに消滅していく。
『ワンダヴィジョン』は、不遇のカップルだったワンダとヴィジョンが、必要に迫られた形ではなく、己の意志で死別を選ぶ物語でもある。この行動によって、彼らの物語には区切りがついたといえるだろう。新生ヴィジョンが合流し、ふたりが共に生きていく展開も期待しつつ、試練を乗り越え目覚めた新たなヒーロー、スカーレット・ウィッチの物語に、期待したい。
文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema」
ディズニープラス オリジナルドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』 ディズニープラスで独占配信中
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