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『ダークナイト』IMAXフィルム撮影を劇映画に取り入れたノーランの野心とは

©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

『ダークナイト』IMAXフィルム撮影を劇映画に取り入れたノーランの野心とは

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ノーランがIMAXに見出した映画の未来



 とはいえ、IMAX撮影されたシーンがIMAXサイズに切り替わる『ダークナイト』のIMAX上映を観た人は決して多くない。その点において、筆者も『ダークナイト』でノーランが望んだ最大限の映像効果を100%体感できたとは言えない。しかし冒頭の強盗シーン、それもカメラが空からビルの窓へと寄っていくファーストショットを観るだけで、われわれ観客は、何かただならぬ迫力が映像に宿っていることを察知することができる。


 また、IMAXカメラを使った影響は、撮影班だけでなくあらゆるパートにも影響を与えた。一画面の情報量が多くディテールまでが映ってしまうので、小道具や美術のスタッフは細かい造作から素材の質感まで“本物”が求められることになった。音楽担当のハンス・ジマーとジェームズ・ニュートン・ハワードはIMAXの画の力に負けない厚みと存在感のある作曲を心掛け、編集はワンカットワンカットを細切れにせずに、ひとつひとつのショットを余裕をもって見せるアプローチが取られた。


 『ダークナイト』の映像が今観ても古さを一切感じさせない一方で、どことなくクラシカルな威厳と落ち着きも感じさせるのは、IMAX撮影によっておのずと作品のスタイルが形作られていった結果でもあるのだろう。


 前述した通り、『ダークナイト』では限定的な使用にとどまったIMAXカメラでの撮影は、同作で自信を得たノーランによってさらに推進され、『ダンケルク』では長編の劇映画としては異例のほぼ全編IMAX撮影が実現。監督自身がIMAXフィルムでの上映で鑑賞することを推奨するまでになった。それも『ダークナイト』の大成功でノーランが製作上の自由を手にしたおかげだ。


『ダンケルク』特別映像


 残念ながら日本にはフィルムのIMAXを上映する施設はもはやなく、縦横比1:1.43のIMAXレーザー/GTテクノロジーも、東京・池袋のグランドシネマサンシャインと大阪の109シネマズエキスポシティの2館のみ。世界的にも、ノーランが理想とする形で上映できる映画館は数えるほどしかない。


 これをノーランのわがままなやりたい放題と取るか、映像表現の可能性を探求し続ける映画作家の鑑と取るかは、議論の余地があることだろう。しかし、現在ほとんど孤軍奮闘状態のノーランのたゆまぬ努力と情熱がなければ、『ダークナイト』の素晴らしい映像も生まれず、『ダンケルク』でIMAXの真価が改めて評価される事態もなかった。願わくは、ノーランに追いつき追い越せで、IMAXのポテンシャルを最大限に生かした劇映画の企画が数多く生まれ、われわれ観客にさらなる驚きと刺激を与えて欲しいものである。



文: 村山章

1971年生まれ。雑誌、新聞、映画サイトなどに記事を執筆。配信系作品のレビューサイト「ShortCuts」代表。



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『ダークナイト』

ブルーレイ ¥2,381+税/ DVD¥1,429 +税

ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

(c)2014 Warner Bros. Entertainment Inc.

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