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『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 中編

©大島渚プロダクション

『戦場のメリークリスマス』大島渚×デヴィッド・ボウイ×ビートたけし×坂本龍一 異色の戦争映画が実現するまでの軌跡 中編

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念願の出演となった三上博史



 もうひとり、出演を心待ちにしていた20歳の青年がいた。3年前、『日本の黒幕』で少年テロリスト役に抜擢されていた三上博史である。寺山修司が監督した『草迷宮』に続いて、大島映画に主演するという幸運を掴みかけたところで、大島の降板によって潰えたが、今回は大島からオーディションの知らせを受けて、喜び勇んで会場に行ってみたところ、直ぐに軍服を着るように言われて従うと、それで終わりだと言う。脚本をもらったその足で喫茶店に飛び込み、貪るように読んだところ、自分の役は映画の最後近くで、デヴィッド・ボウイに飛びかかる一兵卒だった。脚本のト書きにして一行の役である。『日本の黒幕』の少年テロリストという大役を逃し、3年待った大島作品に念願の参加が叶ったというのに役が小さい。三上は大島に直談判するべく再び事務所へ向かった。


 しかし、もう誰もいなかったため、夜まで部屋の外で待っていると、酔った大島がスタッフを連れて帰ってきた。「何をしてる?」と問われても、興奮した三上は言葉にならない。とにかく中に入れと言われて勧められるままにビールを飲んで人心地ついたとこところで、三上は訥々と不満を述べた。話を聞き終わった大島から、「君にはこの役しか向かないだろう」と言われると、返す言葉がなかった。


 悶々とした三上は、そのまま帰ることもできずに、今度は寺山修司を訪ねた。脚本を見せて不満を口にすると、寺山は慰めつつ、「何もすることがないなら、ニュージーランドへ行くのもいいんじゃないか」と言う。大島と寺山の言葉に納得した三上は、わずか数秒のシーンに全てを賭けて出発することを決意した。


 スタッフも次第に集まり始めた。当初から決まっていた美術監督の戸田重昌以外にも、助監督を志望する若者が早い段階から大島のもとに来ており、3年越しのクランクインを待ちかねていた。大島は照明に『愛のコリーダ』で組んだベテランの岡本健一を配し、撮影監督は新人に頼む心づもりだったが、岡本のスケジュールが合わないことから、一転して撮影はベテランを起用する方針に傾いた。1982年6月4日、ある会合の席で、大島は撮影監督の成島東一郎に脚本を渡した。成島とは『東京戦争戦後秘話』『儀式』でも組んでおり、大作を担うに相応しい技術を持っていたが、クランクインを2か月後に控えた慌ただしいオファーでもあった。成島は帰りの電車で脚本を2回読んだうえで、翌日、大島に引き受ける旨を伝えた。


 それにしても、企画開始から4年もの時間があったにもかかわらず、撮影直前になって重要なキャストやスタッフが決定していくというのは不思議にも思えるが、デヴィッド・ボウイや戸田重昌のような優雅なアーティストは、大島が撮り始めるまで何年でも待ってくれたが、フリーランスで働く映画人たちを、ギャラも払わずに長々と口約束で拘束することは出来ない。確実に撮影に入れる見通しが立った上で、ようやく雇用契約を結ぶことになる。その意味では、公開5か月前に『日本の黒幕』の監督を引き受けたのも、脚本さえ上手く出来れば、決して無理なスケジュールではなかったことが分かる。




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