前作のおさらいと進化を同時に描く秀逸な演出
『ターミネーター2』が続編である以上、前作とのリンクはあって当然なのだが、本作では意識的に前作とオーバーラップする演出が施されており、前述したシナリオの踏襲も相まって、アップデート感を強く抱かせる。
冒頭、未来での人類VS機械の戦争シーンから始まる構造も同じだ。戦車のキャタピラーがしゃれこうべの山をつぶしていく場面は、構図からして全く同じ。しかし、「二番煎じ」になっていないのが秀逸だ。というのも、前作ではラスト数分の登場だったメタルのターミネーターがこの後すぐに何体も登場し、前作では数機だった戦闘機が大量に現れ、人類軍の数も大幅に増えている。『ターミネーター』では予算や技術の都合で叶わなかったであろう戦争描写が、スケールアップして描かれるのだ。
T-800の登場シーンも、前作から進化している。『ターミネーター』では出現自体は映っておらず、カットを割って出現後を映すという演出だったのに対し、今回は画面の中にT-800が出現する。映像技術が進歩したため、フレーム内にいきなり現れる=転送シーンを余すところなく描く、という演出が可能になったのだ。
『ターミネーター』予告
また、前作では電話帳でサラの住居を探していたのが、今回はパトカーに搭載された警察のネットワークにアクセスする、という方法に変わっている。電話口にいるのが本人に成りすましたターミネーターだった、という演出も前作と同じだ(ただし、T-1000は声だけでなく外見もコピーできる)。このように、前作のファンからすると節々に「進化点」を感じられる作りになっており、気持ちを高揚させてくれる。
アクションシーンにおいても、投げる→ガラスを突き破る、という演出が多数登場。ひょっとしたらキャメロン監督の趣味なのかもしれないが、『ターミネーター』でも多用されていたアクション演出がボリュームアップして描かれ、さらにはチェイスシーンはやっぱりタンクローリー、T-800が腕をはぐシーンは前作の手術シーンを彷彿させる。細かい部分だが、チェイスシーンでT-800がサラに「運転を代われ」と言うシーンは、前作のカイルのセリフと同じ。前作のT-800→T-1000、カイル→T-800という構造を示す意味でも、非常に有効だ。
『ランボー/怒りの脱出』(85)の脚本、『エイリアン2』(86)の監督・脚本など、シリーズものに途中から加わることも得意なキャメロン監督だが、本作ではサブリミナル効果的に要所要所に前作のエッセンスを忍び込ませ、前作から7年空いたブランクをまるで感じさせない。説明ゼリフや映像に頼らない観客のスマートな誘導も、キャメロン監督が当代随一のヒットメーカーたるゆえんだろう。
『ターミネーター2』劇場予告
監督としてだけでなく、プロデューサーとしてもキャメロン監督は超一流。本作の初期プロモーションでは、T-800が「良い」ターミネーターであることを隠すため、ジョンと一緒に映った映像をあえて見せなかったという。このエピソードからも、キャメロンがいかに観客の「心理」を真剣に考えているかが伝わるだろう。