当時の最新技術を結集させたT-1000
では逆に、本作の「新しさ」はどこだろう? 諸説あるかと思うが、本稿では大きく分けて2つを紹介したい。ターミネーターの「進化」と「深化」だ。ここでいう「進化」はT-1000、「深化」はT-800を指す。
まず、「進化」について。液体金属の身体を持つT-1000は物理攻撃を受け流し、超再生もできる無敵の存在。床に同化したり、T-800が変声しかできなかったのに対して外見からコピーできる。表情も豊かになっており、T-800のように朴訥とした物言いではない。より人間に近い存在となっており、故に「不気味の谷」現象(ロボットなどが人間に近づくほど嫌悪を抱く心理状態)に近い感覚を抱かせる。
前作のT-800が無感情の恐怖を抱かせたのに対し、より人間に近づいたT-1000には「冷徹さ」が垣間見える。その印象を強めるのが、T-1000の攻撃スタイルだ。身体を自由に変形して刃物にするT-1000は、銃をぶっ放して敵を倒すT-800に比べてより残酷だ。ジョンの里親が真っ二つにされるシーン、警備員が脳天を貫かれて殺されるシーンなど、前作の手術シーン以上にグロテスク。これらの影響もあって本国では前作に引き続きR指定を受けたが、T-1000のキャラクター造形のためには必要不可欠な残虐性だったといえるだろう。
『ターミネーター2』メイキング
また、このR指定に関しては、アーノルド・シュワルツェネッガーの安心材料にもなったという。シュワルツェネッガーは当初、T-800が善玉になるというアイデアに「T-800のイメージが崩れるのではないか」と不安を感じていたが、キャメロンがR指定ありきで構想していると知り、考えを改めたそうだ。
T-1000を演じたロバート・パトリックは、ハクトウワシの頭の動きを参考に、役作りを行ったという。また、全速力でジョンを追いかけるシーンで人間らしさを消すため、鼻だけで呼吸するトレーニングを積んだそうだ。その結果、走るのが早すぎてジョン役のエドワード・ファーロングが乗ったバイクに追いついてしまった、というハプニングも発生。
T-1000役ははじめ、ロック歌手のビリー・アイドルが予定されていたが、事故によりパトリックが務めることとなった。ちなみに、核戦争の引き金となるシステムを生み出すマイルズ役には、デンゼル・ワシントンがオファーされていたが、役柄に興味を持てず断ったという。
T-1000の裏話においては、サウンドデザインが興味深い。T-1000が金属の格子を通過する際の音は、ドッグフードの缶を使って録音されたのだとか。また、水銀のような状態の際には、小麦粉と水を混ぜたものをコンドームで覆ったマイクに吹き付けたという。T-1000が弾丸を吸収するシーンでは、ヨーグルトを使用したそうだ。
当時の最新技術をフル稼働させて生み出されたT-1000は、『ターミネーター』でのT-800のポジションをアップデートさせたキャラクターとしてだけではなく、独自性という意味でも実に画期的だった。