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『ターミネーター2』「進化」と「深化」ジェームズ・キャメロンがアップデートさせたものとは

(c)Photofest / Getty Images

『ターミネーター2』「進化」と「深化」ジェームズ・キャメロンがアップデートさせたものとは

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「心」をアップデートさせたT-800



 「外見」が究極進化を遂げたT-1000に対し、「内面」が深化したのが本作のT-800。劇中、サラのモノローグにあるようにジョンの父親代わりとして活躍し、自身も「心」を学んでいく。「人が泣く気持ちがわかった。俺は泣けないが」というT-800のセリフに、前作と180度異なる優しさや哀愁を感じた方も多いだろう。


 『ターミネーター』では約60分をかけてT-800のキャラクターを構築していったが、本作では10分足らずで服とサングラス、バイクにショットガンといったおなじみのアイテムたちを手早く揃えてしまう。その代わりに時間を割かれるのは、T-800がジョンやサラと絆を育み、疑似家族の関係になっていくプロセスだ。


 ジョンはT-800に「カッコいい」言葉やしぐさを教えるばかりでなく、「何があっても人を殺してはダメだ」という博愛の精神――人を人たらしめる道徳や倫理を伝える。このジョンのまっすぐな信念は、「大儀のためには殺人を犯すしかない」と考え、強戦士と化したサラにも伝播していく。



『ターミネーター2』(c)Photofest / Getty Images


 目的のため、合理的に対象を消去するのはコンピュータ的な考えであり、たとえ遠回りでも「話し合い」、無血を目指すのが人間なのだ――。ジョンが当たり前のこととして語る「殺人はダメ」という教えは、人類の最後の「意地」をも示している。彼が未来で人類のリーダーとなる人物であることを予感させる、上に立つ者の片鱗を垣間見せるシーンだ。


 敢えて冒頭では不良少年としてジョンを描くという「マイナス面」からスタートさせ、母への不信が氷解するとき、彼の中心に高潔な心が戻ってくるという展開も見事。ジョン、サラ、T-800それぞれに“成長”へと至るステージが用意されており、3人が力を合わせて人類の危機を食い止めようとすることで、これまでには見られなかった「家族映画」へと進化を遂げる。これは、前作で叶わなかった「家族3人で共に戦う」というサラの想いも回収する展開であり、「少年とロボットの絆」で終わらない“深み”がある。



『ターミネーター2』(c)Photofest / Getty Images


 T-800の表情に変化が起こる点も重要だ。前半ではジョンの命令に従い、納得できないながらも「人を殺さない」ルールを守っていたT-800だが、武器庫で「これはいい」と銃を吟味し、ガトリングガンを見つけてニヤッと笑うシーンは、機械の領域を超えた自立を感じさせる。あくまでプログラムを順守する立場だが、そこに彼の「意志」も追随していくのだ。


 作品全体を通しても、「機械は真の意味で『敵』ではない」というメッセージが強く伝わってくる。冒頭でジョンはゲームやスキミングマシンといった機械に慣れ親しんだ存在として描かれ、彼の中にある機械への偏見のなさが、人類の希望として光り輝いていく。サイバーダイン社に潜入する際も、窮地に陥った彼らを助けるのは機械だ。


 サラのセリフにもあるように「悪いのはあくまで人間」であり、この思考によって、『ターミネーター』シリーズは前作のような二項対立状態から抜け出していく。心を学んだT-800だけでなく、サラもまた復讐から解き放たれて心を取り戻し、ジョンは母親と再会して心が安定する。平和への真の礎となるのは、武力ではなく「情」なのだ。


『ターミネーター ニュー・フェイト』


 本作はあくまでフィクションでありエンターテインメントだが、「情の消失」が叫ばれる今だからこそ、作品に込められた平和へのメッセージに、特別な思いを抱かずにはいられない。未来は変えられる。運命なんてものはない(No Fate)のだ。




文: SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」



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