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『天才マックスの世界』ビター・スウィート・シンフォニー

(c)Photofest / Getty Images

『天才マックスの世界』ビター・スウィート・シンフォニー

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子供時代の夢想



 少年マックスの華麗なる課外活動を紹介する映像群の中で、ゴーカートに乗っているマックスのショットが、ジャック=アンリ・ラルティーグの写真からインスピレーションを得ていることも示唆に富んでいる。『アステロイド・シティ』のミッジというキャラクターが、『荒馬と女』(61)のマリリン・モンローの舞台裏の写真を元にしていたように、ウェス・アンダーソンは一枚の写真から想像力を膨らませていくことが多い。この点で、同世代のファッション写真と映画との関わりを強く意識しているソフィア・コッポラと通じるものがある。さらにジャック=アンリ・ラルティーグが子供の頃からカメラに夢中になっていたというエピソードは、『天才マックスの世界』を別の視点から補完している。子供の頃のウェス・アンダーソンの最初の夢は建築家だった。父親からプレゼントされた図面台で“家”の製図をしていたという。そして8ミリカメラを与えられたこと、演劇を作り始めたことで、ウェス・アンダーソンの人生は大きく動きだす。ウェス・アンダーソンのすべての映画は、子供時代の夢想と強く結びついている。



『天才マックスの世界』(c)Photofest / Getty Images


 マックスの創造する演劇が“戦争”を描いているのも興味深い。本作において“戦争”は、ローズマリー(オリヴィア・ウィリアムズ)をめぐるマックスとブルームの三角関係における争いであり、またマックスの思春期における闘いであり、さらにベトナム戦争を体験したブルームの記憶でもある。『アステロイド・シティ』のスタンリー(トム・ハンクス)は腰に銃を担えていた。劇中で説明はないが、スタンリーには第二次世界大戦を経験したトラウマが残っているように見えた。ブルームはマックスの中に、かつての自分の姿を発見するだけに留まらず、マックスの創造する演劇の中にかつての戦争体験を発見する。マックスとブルームは、お互いを子供時代と大人時代の中間地点へと連れ出す関係にある。





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