守護天使ビル・マーレイ
「人生では上り坂で出会う人と下り坂で出会う人がいる。(中略)同時に、自分が下り坂にいるのかどうかも分からない」(ビル・マーレイ)*2
ブルームというキャラクターは、ビル・マーレイへのあて書きだったという。中年の危機を悪戯っぽく飄々と演じたビル・マーレイは、本作以降、第二のキャリアを形成していく。ソフィア・コッポラ監督の『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、そして『アステロイド・シティ』を除くウェス・アンダーソンの全映画の守護天使。ソフィア・コッポラにビル・マーレイを紹介したのはウェス・アンダーソンだった。本作以後、アメリカ映画自体にビル・マーレイにしか演じることのできない枠組みが生まれていく。『天才マックスの世界』について語ったビル・マーレイの言葉は、彼の演じるキャラクターを的確に表わしている。
『天才マックスの世界』(c)Photofest / Getty Images
ビル・マーレイは『天才マックスの世界』の脚本に感銘を受けたという。これほど正確に書かれた脚本を書く人なら信頼できると、ウェス・アンダーソンのことを知らずに出演を快諾している。予算のない本作への出演を、当時の俳優組合の最低賃金で承諾している。さらに制作会社が承諾しなかったヘリコプターでの空撮にかかる費用(7万5千ドル)に対して、白紙の小切手を自ら差し出している。最終的に空撮が行われることはなかったが、ウェス・アンダーソンはこのときの小切手をいまでも大事に持っているという。