印象的な水のイメージ
映画はまず、きれいな水の中でそよぐ水草と、水辺を眺める心理学者のクリス・ケルヴィン(ドナタス・バニオニス)の姿をとらえる。緑豊かで美しい自然に囲まれた実家の周辺をケルヴィンは散歩しているのだ。家には、父親(ニコライ・グリニコ)と伯母(タマーラ・オゴロドニコヴァ)がいる。そこにはるばる訪ねてきたのが、元宇宙飛行士のアンリ・バートン(ウラジスラフ・ドヴォルジェツキー)。彼は、「海洋惑星ソラリス」を調査するために宇宙に旅立つ予定のケルヴィンに、過去にソラリスへと赴いた経験から、謎めいた忠告をするのだった。
印象的なのは、やはり水のイメージだ。水中の水草、いくつかの木々を飲み込んでいる沼地、そして突然の雨。ケルヴィンはなぜか、雨にずぶ濡れになったまま、デッキに佇んでいる。傍のテーブルにはティーセットがあり、家族が楽しむはずの紅茶が入った複数のカップには、雨粒が容赦なく落ちている。この尋常ではないシーンから、ケルヴィンの内面の問題や、疎外感が伝わってくる。
ソラリスでの超自然的な現象について語る、元宇宙飛行士のバートン。しかしケルヴィンはその言葉を信用できず、思わず口論となってしまう。そんなケルヴィンを、強い言葉でたしなめるのが父親だ。「皆がお前に迷惑している」という口ぶりからは、ケルヴィンが父親とうまくいっていないこと、そして過去に何かトラブルがあり、それが継続していることを暗示している。全体のストーリーを知っていれば、おそらくは、この後の展開で存在が明らかになってくる、亡くなった妻ハリー(ナタリヤ・ボンダルチュク)にまつわることだと類推できる。
そして父親が畳みかける、「親の死に目に会えないのが不満なのか?」というセリフからは、ソラリスへの渡航や調査期間が、予想される父親の余命と重なっていることも分かる。その後、ケルヴィンは予定通りソラリスへと向かうこととなるので、おそらくはもう地球で父親と会うことはできないのだろう。子どもがいず、妻をも亡くしているケルヴィンは、近い将来、家族と呼べる存在を失うことを意識しながら、孤独な旅に出るのだ。