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『惑星ソラリス』原作者との見解の違いをも乗り越え、SF映画の傑作たらしめる理由とは

(c)Photofest / Getty Images

『惑星ソラリス』原作者との見解の違いをも乗り越え、SF映画の傑作たらしめる理由とは

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眠気をもよおす⁉︎ 首都高での撮影シーン



 興味深いのは、都市部へとバートンが帰還する際に、車中でテレビ電話をするシーンだ。この走行シーンに使われているのが、タルコフスキー監督が東京で撮影した、首都高速道路を走る風景だ。アスファルトやコンクリートがひしめいている異文化の眺めを、近未来の景色として転用したのであればユニークなアイデアなのだが、この場面の尺が異様に長いのである。とくに自宅で本作を鑑賞するとき、ここで眠気をもよおす人が多いと聞く。


 タルコフスキー作品は長回しを多用するので、このような演出は珍しくないとはいえ、この箇所はストーリーが要請する尺を大きく逸脱しているところがある。クエンティン・タランティーノも、「いつも『惑星ソラリス』で寝てしまう」などとネタにしているほどだ。そして逆にソラリスを探査中の宇宙ステーション「プロメテウス」に到達するまでの過程が、ほぼ一瞬で描かれる箇所では、時間感覚の飛躍に驚かされることになるだろう。もちろんこれは、打ち上げや到着のシーンを表現すれば予算も時間もかかるという事情もあるのだろうが、その逆風を印象的なものに変えてしまうというのが、監督の手腕だといえよう。



『惑星ソラリス』(c)Photofest / Getty Images


 宇宙ステーションには、3人の調査メンバーが先遣されているのだが、ケルヴィンの友人ギバリャン(ソス・サルキシャン)はビデオメッセージを遺して自殺、残った2人も何か様子がおかしいという状況だ。そればかりか、探査船に到着したケルヴィンは、そこにいるはずのない人々が船内を歩き回っているのを目撃してしまう。さらに、困惑の日々を送るケルヴィンのもとに、過去に自殺したはずの妻ハリーが訪れるのである。


 ハリーは部分的に記憶が欠落し、混乱してはいるものの、ケルヴィンのことは覚えているようで、自然に彼に寄り添おうとする。彼女は寸分違わずハリーそのものに見え、その腕には自殺をした際の注射の痕まであるのだが、何かが違う。宇宙服に着替えさせるために服を脱ぐのを手伝おうとすると、背中に結ばれていた紐の穴がめちゃくちゃで、服としての機能が不完全だという事実は、事態の不穏さを増大させている。


 この不気味な出来事に対して、一見冷静な態度をとるケルヴィンだが、内心はパニックに陥っている。彼がハリーを一人でロケットに乗せて宇宙空間に捨てるという異常な行動に出るまで、観客にそのことを本格的に意識させないという趣向が、さすがタルコフスキー監督の非凡な演出だといえよう。しかし、ケルヴィンはハリーを厄介払いできてはいなかった。彼女は、また同じようにケルヴィンの目の前に登場し直すのである。





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