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『ウエストワールド』AIを予見しCG技術の黎明となった、マイケル・クライトン長編監督デビュー作(後編) ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『ウエストワールド』AIを予見しCG技術の黎明となった、マイケル・クライトン長編監督デビュー作(後編) ※注!ネタバレ含みます

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『ルッカー』と『ジュラシック・パーク』



 ホイットニー・ジュニアは、トリプルアイの技術開発の進歩を見る内に、後10~20年で人間とまったく見分けの付かないシミュレーションの俳優が登場するだろうと考え、このアイデアをすっかり友人となったクライトンに話した。クライトンは早速これを脚本にまとめ、『ルッカー』(81)という映画として、ラッド・カンパニーで監督することにした。


 ストーリーは、デジタルマトリックスという企業が、密かにルッカーというシステムを開発し、テレビCMのモデルたちをCGにすり替えてしまい、その眼から放たれる催眠光線で視聴者をコントロールする。そしてその陰謀に気付いた整形外科医が、デジタルマトリックス社の中枢に忍び込む…というハイテクスリラーである。脚本に無理があり過ぎるのと、クライマックスシーンの演出があまりにも間が抜けていて、日本では劇場未公開に終わっている。


 しかし随所に登場するアイデアが素晴らしく、人間の全身をデータ化する3次元スキャナーや、CGと出演者をリアルタイムで合成するバーチャルスタジオ、瞳孔追跡による広告の効果分析など、今日では実現しているギミックが数多く見られる。そして女優スーザン・デイがデジタル化されていく過程を、ワイヤーフレームからコンスタントシェーディング、スムーズシェーディング、テクスチャマッピングなどを施していく映像で表現している。


 81年当時、ホイットニー・ジュニアは雑誌のインタビューで、ロングショットにおける俳優の代役、あるいはすでに亡くなった俳優、大群衆、さらにエイリアンや動物などをCGキャラクターに演じさせる可能性について述べている。またクライトンとの対談で、恐竜をCGで蘇らせることについても語っている。つまりこの時点で、彼らはバーチャルアクターやクリーチャー描写におけるCGの可能性を、かなり正確に予言していた。


 そしてその予言が実現したのが、クライトン原作の『ジュラシック・パーク』(93)だった。またこの映画は、『ウエストワールド』のコンセプトを、ほぼそのまま恐竜に置き換えたものだったと言える。



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1980年より日本エフェクトセンターのオプチカル合成技師。1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経て、フリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。プロ向け機関紙「映画テレビ技術」で長期連載中。東京藝大大学院アニメーション専攻、女子美術大学専攻科、日本電子専門学校などで非常勤講師。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社



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