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『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』技術革新を牽引したキャメロンが描く“家族の物語”(後編)

© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』技術革新を牽引したキャメロンが描く“家族の物語”(後編)

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空気すら描くManukaの光学世界



 注意して観ていないと気付かないかもしれないが、本作では空気そのものすらレンダリングされているのだ。Manukaは、大気中に漂う微細な粒子に対し、光がどのように当たり、どのように散乱するかを物理的に計算している。例えば、空気分子など極めて小さな粒子による「レイリー散乱」は、大気の青みや、朝焼け・夕焼けの赤みを生む現象だ。例えば、若いナヴィたちの周囲をトゥルクンの群れが取り囲む印象的なシーンでは、このレイリー散乱が水面の光と相互作用し、空気の“厚み”を生み出している。


 また、灰や塵といったやや大きめの粒子が、霧や煙、雲の白さを生む「ミー散乱」もManukaによって物理的に求められている。火山の降灰によって霞んだアッシュ族の村の空気感は、その典型例だ。Manukaはこれらの散乱現象を、光が空気の層を何度も跳ね返りながら減衰していく「マルチプル・スキャタリング」として再現している。こうした空気のレンダリングは、観客が気に留めることはほとんどないが、無意識の内に“その場にいる感覚”を生み出している。



『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.


レンズの存在すら表現



 自分でCGを手掛けている人なら気付いたと思うが、『FaA』には逆光のシーンにレンズフレアが入っている。そのこと自体は珍しくないのだが、それがやけにリアルなのだ。通常のCG作品では、ポストエフェクト(後付け処理)でフレアを加えている。


 しかし本作では、Manukaが“レンズの光学系”を丸ごとシミュレートしている。つまり、何枚ものガラスが重なったカメラの内部を光が通過する過程で、レンズの縁や鏡胴内部で反射したり、屈折率の違いで色収差が生じる現象を、スペクトルベースで再現しているのだ。だからフレアの色が自然で、光の“にじみ”が本物のレンズに近い。そして、光源の強度に応じてフレアが変化し、逆光時の空気の厚みと連動するため、従来のCGでは難しかった表現が可能になっている。


 そのため『FaA』のフレアは、単なる“CGの装飾”ではなく、あたかも“レンズを通した光”として観客の目に届くのだ。このように、従来のRGBベースのレンダリングでは再現できなかった光の微妙な変化を、Manukaは波長単位で扱うことで可能にした。こうした光学的な正確さが、『FaA』の“実写と見紛う質感”を支えている。




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