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『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』技術革新を牽引したキャメロンが描く“家族の物語”(後編)
2025.12.24
ディープコンポジット
レンダリングが終了した画像は、コンポジット(合成)という工程に移る。しかし、通常のコンポジットシステムは、単純に2Dレイヤーの順番や、その透明度だけを考慮するものだった。この場合に問題となるのが、煙、炎、雲、霧、ライトビームなどのボリュームレンダリングによる体積を持つ物体や、被写界深度によるボケを含んだ映像、水しぶきの奥の背景といったケースのコンポジットである。そのため従来、こういった要素を含んでいた場合は、すべてを同一画面で表示せねばならず、うまく行っていない時は、もう一度レンダリングし直す必要があった。
そこでWeta Digitalのコリン・ドンカスター、ヨハネス・サーム、アレイト・エチェバリア、ヤンネ・コントカネン、クリス・クーパーらが、Deep Compositingという新しいコンポジット技法(*1)の基礎技術を構築した。従来のコンポジットでは“平面の重ね合わせ”しかできなかったが、Deep Compositingは“空間そのものを合成する”技術だ。さらに同社のピーター・ヒルマン博士は、長期的な開発・標準化・Deep Image Formatの整備に貢献した。彼らは全員、2014年のアカデミー賞科学技術賞を受賞している。

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』© 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.
このDeep Compositingは、ピクセルごとに深度やカラー、透明度、relative Z-depth(カメラから見た1ピクセル内のサンプルの相対的奥行き)など、複数の情報を持たせることで、再レンダリングせずに後から調整することを可能にした。従来のコンポジット手法に比べてデータ量は重くなるが、柔軟性と操作性が向上し、水や空気の厚みなどがリアルに表現できる。ちなみにWētā FXでは現在、Manukaを含むほぼすべてのレンダリングがDeepデータを前提としており、最初からレイヤーを分解した状態で出力される。
なお現在Deep Compositingは、Animal Logic、ILM、MPC、FUEL VFX(現Animal Logic)、DreamWorks Animationなどのプロダクションや、Peregrine Labsといったメーカーによって普及が進み、Foundry社によってNukeに搭載されている。
https://www.fxguide.com/fxfeatured/the-art-of-deep-compositing/
https://www.wetafx.co.nz/research-and-tech/technology/deep-compositing
https://en.wikipedia.org/wiki/Deep_image_compositing
*1 源流となったアイデアに、ピクサー・アニメーション・スタジオによるDeep Shadow Mapsがあった。