奇才テリー・ギリアムが固めた、他人の企画に乗っかる覚悟
思えば、テリー・ギリアムとユニバーサルは、遡ること10年前の『未来世紀ブラジル』(85)をめぐって散々バトルを繰り広げた間柄だ。そんな彼が、いくら脚本に魅せられたとはいえ、ユニバーサルの企画を再び引き受けてくれたことは製作陣にとっても大きな驚きだったようだ。それはずっと情熱を注ぎ続けてきた「二都物語」や「ウォッチメン」といった企画が暗礁に乗り上げた直後。その時の心境についてギリアムはこう語っている。
「(『12モンキーズ』は)“ぜひともやりたい”って作品ではなかったよ。でも、時にはそのほうがいい。これを作りたいっていう溢れんばかりの情熱を抱いていることが、必ずしも最善ってわけじゃないんだ」(*1)。
こういったタイミングがピタリと噛みあい、ギリアムは『フィッシャー・キング』(91)と同様、本作でも“他人の企画”に乗っかることになった。
『12モンキーズ』© Photofest / Getty Images
加えて、本作に惚れ込んだ理由として彼はDVDのコメンタリーで「こんな脚本がハリウッド・システムの中で書かれたことが信じられない」と語っている。通常の娯楽作に比べて観客側にあまり情報を与えず、鑑賞後も解釈をめぐって頭の中にたくさんの「?」を灯すことになるこの作品。まるでヨーロッパのアート映画のような企画を、あえてハリウッドでやる。その新しさにギリアムは惹かれたのだった。
ただし、これまでやったことのない新たな目標を目指していたのはギリアムだけではなかった。すでに名声を築いた俳優ブルース・ウィリスやブラッド・ピットも全く同じ心境にいた。二人はそれぞれのルートで稀代の奇才監督とコラボレーションする道を模索。自らをギリアム色に染め上げることで俳優としての新たな方向性が掴み取れると確信していたのだ。