まるで赤子のように新たな境地へと達した3人
ふと思い返すと、街中に突如現れるロゴマークは、猿が円形に配置され、まるで延々と繰り返される輪廻を表しているようにも見える。生まれては死んで、死んではまた生まれ変わる。それはどこか俳優や映画監督の仕事や生き様と重なっているのかもしれない。
また、本作を何度か鑑賞していると、この猿のロゴマークといい、母の胎内から生まれ出るかのような構造を持ったタイムマシンといい、さらには随所に現れるトンネルというメタファーしかり、ギリアムやキャストたちの「新たな境地へ突き抜けたい」という願望が至る所に表出するのをひしひしと感じずにいられないはずだ。
かくも三者三様の覚悟を胸に挑んだ映画だからこそ、『12モンキーズ』には何か得体の知れないエネルギーが満ち満ちているのだろう。あれから20年以上が経過しても、その異様さ、唯一無二の個性、独特の空気感は微塵も損なわれていない。むしろ今観ることによって、本作には“未来からの視点”が加わり、私たちは本作をよりスリリングに、アイロニックに、なおかつリアルに享受することが可能なのかもしれない。
『The Man Who Killed Don Quixote』予告
思えば、2018年はギリアムが長年取り組み続けた”The Man Who Killed Don Quixote (ドンキホーテを殺した男)”がようやく実りをつけた年でもあった。この収穫の時を祝す意味合いも込めて、年末年始のひととき、彼のキャリア最大のヒット作『12モンキーズ』に改めてじっくりと身を浸してみてはいかがだろうか。
(引用)
*1、「テリー・ギリアム/映像作家が自身を語る」イアン・クリスティ著、広木明子訳、フィルムアート社(1999/12) p.294
*2、同 p.297
(参考文献)
「テリー・ギリアム映像大全」ボブ・マッケイブ著、川口敦子訳、河出書房新社(1999/10)
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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