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監督vsプロデューサー『スーパーマン』の撮影現場では何が起きていたのか?

監督vsプロデューサー『スーパーマン』の撮影現場では何が起きていたのか?


ふたりのリチャード、その功罪



 1978年12月15日の公開を無事に迎え、関係者たちは大ヒットの報せに沸き立っていた。そして、撮影が途中で止まっている『スーパーマンⅡ』の製作再開が検討され始めた。7割近くが撮り終わっているとはいえ、ラストシーンは1作目に使ってしまったので、新たに書き加えなければならない箇所も多い。一方、映画業界ではサルキンド親子vs.ドナーの争いが噂になっていた。それを聞きつけた業界紙の記者が双方にコメントを取るとトラブルを認めたが、ドナーのコメントにサルキンド側が激怒するなど泥沼化の様相を呈し、ドナーは『スーパーマンⅡ』から降板させられてしまう。後任の監督には再びガイ・ハミルトンの名前が取り沙汰されたが、ワーナーからはドナーの再登板が理想だが、無理ならばレスターという要望だった。これは1作目が大部分撮り終わっているだけに、スムーズに続編を完成させられる監督として、レスターの名前が挙がったのだろう。こうして『スーパーマンⅡ』はレスターによって追加撮影が行われたが、多くの場面をドナーが撮っていたにも関わらず、ドナーの名前は一切クレジットされることはなかった。


 リチャード・ドナーと、リチャード・レスター。クレジットだけを見れば、ドナーは『スーパーマン』にのみ関わった監督であり、レスターは『スーパーマンⅡ 冒険篇』(80)、『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(83)の監督である。ところが実際には、ドナーは『スーパーマンⅡ』の7割方を撮影しており、レスターは1作目の撮影に半分立ち会い、ラストの改定を含めたアイデア出しにも参加している――。こうした不透明な状況が、長い間ファンを二分してきた。つまり、ドナー派vs.レスター派による争いである。ドナー派はレスターの軽薄さを詰り、レスター派はドナーの深刻ぶった重々しさを娯楽映画においては鈍重だと揶揄した。


 では、実際にドナーとレスターは互いをどう見ていたのだろうか。ドナーは、『スーパーマン』の製作をサポートする現場プロデューサー的な立場としてレスターを見ていたにすぎなかったと言うが、周囲からはレスターの目が常に後で光っていることを気にしているように見えていた。


 一方のレスターは、呆れた様子で撮影現場を眺めていた。とにかく無駄に時間がかかり、ちっととも撮影が進まないからだ。例えば、ジーン・ハックマンが演じるレックス・ルーサーの手下であるネッド・ビーティとヴァレリー・ペリンが山道を歩くシーンのロケで、わずか40秒ばかりのシーンのためにリハーサルが繰り返され、空は暗雲がたちこめ始めたのに休憩をとったりして、ちっとも本番に入らない。いざ撮影に入ろうとすると、辺りは雲で覆われて、ドナーは天気が悪いと撮影を止めてしまい、天候が回復しなかったために、3日間撮影は中断した。レスターは、自分なら雲がたちこめるまでに、このシーンを撮り終わり、それどころか5テイクはやり直しが出来ただろうと思ったという。これは2人の映画の作り方に対するスタイルの違いを象徴するエピソードだ。


 レスターはアメリカ出身だが、イギリスのCFやバラエティ番組の演出、短編映画で認められ、ビートルズの映画で一躍その存在が知られるようになった。予算やスケジュールに縛りのある作品が多かったせいもあり、早撮りが身についていた。70年代に入ってからも、レスターの早撮りは発揮された。例えば、『ジャガーノート』の撮影は3か月が予定されていたが、レスターは2か月以内に撮り終えてしまった。


 しかし、時としてあまりにも早すぎる撮影や、即興的な演出が弊害を生じさせることもあった。『ロビンとマリアン』では、数々の巨匠と組んできたオードリー・ヘップバーンを、あまりの早撮りで呆れさせた。オードリーが川に投げ出されるハプニングが撮影中に起きると、相手役のショーン・コネリーが助けに向かうカットを急遽撮って劇中に挿入して使用可能にしたり、彼女の声が出ない日もアフレコに切り替えて撮影は予定通り進めたりと、とにかく撮影が止まることを嫌ったのである。挙句の果てに、物語の進行に合わせてコネリーの病が進んでいくようにメイクに段階を付けていかねばならないにも関わらず、レスターは一気に撮ってしまうものだから、やけに元気な顔でコネリーが登場するので流石にプロデューサー陣からの要望でリテイクされることになった。こうした演出スタイルのレスターからすれば、ドナーの演出が、まどろっこしいと感じても不思議ではない。だが、『拳銃無宿』や『トワイライト・ゾーン』などのTVを手がけたこともあるドナーは、気難しい芸術家肌の監督ではない。その後、『グーニーズ』(85)や『リーサル・ウェポン』シリーズ(87〜98)を手がけていることからも分かるが、典型的なハリウッドスタイルの監督であり、レスターの方がむしろ異質なのである。




 こうした全く異なるスタイルの監督2人が携わったことで、『スーパーマン』と『スーパーマンⅡ』は、あたかもクラーク・ケントとスーパーマンのような二面性を持つことになった。堅実で重厚なドナーと、軽妙でユーモアにあふれたレスター。『スーパーマン』冒頭のクリプトン星や、前半の麦畑が広がる田舎町の重厚な描写は、ドナーの骨太な演出によるものが大きく、1作目という土台を作り上げる作業においては不可欠なものだった。後半のスーパーマンが活躍する場面になると、硬質にすぎると思わせる部分もあるが、ジーン・ハックマンが演じるレックス・ルーサーの一味がコメディリリーフを担ってくれるので、硬軟が絶妙に配置されることになった。そこにレスターが提案した終盤の奇想がいっそう盛り上げる。『スーパーマンⅡ』でもドナーの土台がしっかりと出来上がっていたので、レスターによるアレンジが良い形で軽みが加わり、前作を超える面白さを生み出している。ところが、全篇をレスターが撮った『スーパーマンⅢ 電子の要塞』になると、レスターの個性が発揮された反面、スーパーマンの崇高さも消えてしまい、パロディ映画のようになってしまった。つまり、ドナーだけでも、レスターだけも、今観ることが出来る『スーパーマン』と『スーパーマンⅡ』の面白さにまで到達出来ていたとは考えにくい。同じ撮影現場に立つことがありえない対照的な2人の監督の個性が重なり合ったからこそ、いつまでも語り継がれる名作になったのではないだろうか。


 さて、『スーパーマンⅡ』でドナーが撮影を終えていた大部分をレスターがどう改変し、追加撮影を行って完成させたのか。そしてドナーが構想していた『スーパーマンⅡ』とはどんなものだったのか――については、まだまだ長い話が残されているので稿を改めることにしよう。




【参考資料】

『キネマ旬報』(キネマ旬報社)

『映画テレビ技術』(一般社団法人 日本映画テレビ技術協会)

『映画撮影』(日本映画撮影監督協会)

『リチャード・レスター/ビートルズを撮った男』(アンドリュー・ユール著 島田陽子訳/Produce Center)

『スーパーマン モーション・ピクチャー・アンソロジー スペシャル・バリューパック』Blu-ray(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)

『スーパーマン』脚本(1976年7月稿)

『スーパーマンⅡ』脚本(1977年4月稿)

『The Making of Superman the Movie』(David Michael Petrou著/Warner Books)




文: モルモット吉田

1978年生。映画評論家。別名義に吉田伊知郎。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか



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『スーパーマン 劇場版 <4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(2枚組)』

2月6日発売 ¥5,990+税

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SUPERMAN and all related characters and elements are trademarks of and c DC Comics. c 2011 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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