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『ジョーカー』社会の被害者が「王の資質」を得るまで――禁忌にふれる、悪への共振

『ジョーカー』社会の被害者が「王の資質」を得るまで――禁忌にふれる、悪への共振

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ロバート・デ・ニーロが不可欠だった理由



 そのような効果を生み出すうえで、本作に大きく影響を与えた映画が2本ある。『タクシードライバー』(76)と『キング・オブ・コメディ』(82)だ。共に巨匠マーティン・スコセッシ監督と名優ロバート・デ・ニーロのタッグ作。前者は不眠症を抱えたタクシー運転手の孤独な日常を描き、後者はコメディアンを目指す狂信的な男の奮闘をつづる。


 この2作をまとめる言葉は、『ジョーカー』と同じく「狂気」だ。闇の中へどんどんと堕ちていく『タクシードライバー』、光を求めるあまり壊れていく『キング・オブ・コメディ』、陰と陽の2種類の狂気が、『ジョーカー』にはそのまま盛り込まれている。本作の舞台が80年代初頭に設定されているのも、これらの作品に漂う「時代のにおい」を持ち込もうとしたからだ。




 両作品へのオマージュも、隠すどころか前面に押し出している。主人公トラヴィス(デ・ニーロ)が鏡の中の自分に問いかける『タクシードライバー』の名シーン「You talkin' to me?」は『ジョーカー』にもほぼそのまま登場し、アーサー/ジョーカーの二面性を垣間見せ、アーサーが髪を染めてジョーカーへと変わるシーンは、大統領暗殺をもくろむトラヴィスがモヒカンになる姿と重なる。さらに、『ジョーカー』で非常に重要な意味を持つ「拳銃」や、ある凄惨なシーンの演出など、リンクは数えきれないほど多い。


 『キング・オブ・コメディ』に対しては、設定が酷似している。人気番組の司会者であるコメディアンへの憧れと執着、妄想と現実の融解、母親とアパートで2人暮らし、女性の好みも近く、『ジョーカー』の冒頭から中盤にかけての展開は、『キング・オブ・コメディ』から受けた多大な影響が如実に出ている。


 アーサーの人物像においても、周囲が後ずさるほどの「明るい狂気」は、『キング・オブ・コメディ』の主人公ポプキン(デ・ニーロ)に通じる。「もし自分が憧れのトーク番組に出られたら?」と妄想を働かせる展開は、2作品を並べて観たくなるほどの類似ぶり。『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』の存在が、ジョーカーという男が産み落とされる土壌を作っているといえる。




 本稿の冒頭で「ロバート・デ・ニーロは最重要キャスト」と書いたが、その理由は『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』に対するリンクを一層強めたかったから――も大きいだろう。『キング・オブ・コメディ』でパプキンが憧れていた大物コメディアンのポジションを、『ジョーカー』ではロバート・デ・ニーロが演じている。代わりにパプキン、或いはトラヴィスの役割を務めるのはホアキン・フェニックスとなり、「世代交代」が行われている点も大きい。


 『タクシードライバー』、『キング・オブ・コメディ』は『ジョーカー』へと受け継がれていた――。『ジョーカー』鑑賞後、この2作品を再鑑賞するのも一興だ。



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