逡巡する女優、松岡茉優。彼女の演技は、いつだって距離感が絶妙だ。
クラスの人気グループの中にいるのに雑に扱われ、天才なのに孤独を感じ、満たされたはずだが心は空虚――。「のに」と「だが」がつきまとう、他者や社会との間に壁を感じるキャラクターたち。どこか欠落し、満たされない人々を多く演じてきた。
思いやりと渇望の狭間で、どちらにも行けずに惑う人間の性(さが)。松岡がもたらす痛々しさとアンビバレントな空気感は、文字上の彼らに、生の息吹を与える。つまり、松岡が演じると、役の「奥行き」が一気に増すのだ。彼女は、キャラクターを美しい「だけ」に放置しない。それがゆえに、役が内包する懊悩が、観る者にもきちんと届くのだ。
1995年生まれの松岡は、小学生の時に芸能界入り。いくつかの映画やテレビドラマを挟み、2008年、バラエティ番組『おはスタ』に出演。その後、ブレイク前の土屋太鳳や北村匠海と共演したドラマ『鈴木先生』(11)ののち、映画『桐島、部活やめるってよ』(12)と連続テレビ小説『あまちゃん』(13)で、大きく飛躍した。その後の活躍は、今やだれもが知るところだ。
公開延期中だが、2020年には出演映画が2作公開される予定。抜群のトーク力を生かし、ラジオ番組などでも人気を博している。今回は、役を抱きしめ、共に歩む女優・松岡茉優の出演映画を10本に厳選し、ご紹介する。
Index
- 1.『桐島、部活やめるってよ』(12)
- 2.『リトル・フォレスト』夏編・秋編(14) 冬編・春編(15)
- 3.『ちはやふる』上の句(16)、下の句(16)、結び(18)
- 4.『勝手にふるえてろ』(17)
- 5.『blank13』(18)
- 6.『万引き家族』(18)
- 7.『蜜蜂と遠雷』(19)
- 8.『ひとよ』(19)
- 9.『劇場』(20)
- 10.『騙し絵の牙』(20)
1.『桐島、部活やめるってよ』(12) 監督:吉田大八 103分
ここ10年間の印象的な日本映画に、頻繁に名が挙がる傑作といえよう。「何者」や「チア男子!!」の著者・朝井リョウのデビュー作を、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07)の吉田大八監督が映画化。国内の映画賞を席巻した。
学校の人気者で、バレー部のエースだった「桐島」が、突然退部。その“事件”が恋人や友人、部の仲間など周囲の人間に伝播し、やがて学内のヒエラルキーにも波紋を広げていく。話題の中心にいる桐島が劇中に登場しない、という「ゴドーを待ちながら」的「神の不在」が、学校という社会を侵食していく深遠な作品だ。
神木隆之介、橋本愛、東出昌大、山本美月、落合モトキ、浅香航大、前野朋哉、鈴木伸之、仲野太賀といった若手俳優が集結し、彼らの知名度が上がるきっかけにもなった。松岡が演じたのは、クラスの華やかなグループの一員。ステータスを常に気にしており、付き合う相手によって優越感を抱く“嫌な女”だ。いわば潜在的「太鼓持ち」ポジションだが、その事実を認めることにコンプレックスも抱いているような、複雑な役柄でもある。松岡は、自分が選んだ立ち位置に反抗するような彼女の内面のざわめきを、繊細に具現化している。
本作では600人規模のオーディションが3次まで続いたそうで、3次はワークショップ形式だったとか。しっかりと勝ち抜くあたり、松岡の非凡な才能が早くもうかがえる。
ちなみに、同年の『悪の教典』(12)でもオーディションで役をつかんだ。こちらでは、サイコパスの教師(伊藤英明)の標的になる役どころで、染谷将太、二階堂ふみ、林遣都、伊藤沙莉、岸井ゆきのらとともに生徒役を演じている。
『桐島、部活やめるってよ』を無料で観る!「u-next」今なら31日間無料
『桐島、部活やめるってよ』を無料で観る!「hulu」今なら2週間無料