(c)和月伸宏/集英社 ©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心』驚異のアクションで漫画実写化に革命を起こした、大人気シリーズ!
緋村剣心というキャラクターの完璧な設計
さぁ、ではまず記念すべき第1作『るろうに剣心』(12)からみていこう。時は明治11年。幕末の動乱も収まり、文明開化の新時代を人々は謳歌していた。人助けをしながら各地を回る“流浪人”の緋村剣心(佐藤健)は、剣術道場の師範代・神谷薫(武井咲)と出会う。
彼女は、「人斬り抜刀斎」を名乗る辻斬りの風評被害に悩まされているといい、剣心も行きがかり上、薫を助けることに。しかし、実は剣心こそが本物の抜刀斎だった。暗殺者として数多くの人々の命を奪った後悔の念に苦しむ彼は、人を斬れない刀「逆刃刀」を使って命を救うことで、「この戦いの人生を完遂する」誓いを立てていたのだ(この部分の詳細は、第5作『るろうに剣心 最終章 The Beginning』で描かれる)。かつての自分を名乗る人物を追い、凶行を止めようとする剣心。そこに、同じく巷を騒がせる新型アヘンの密売事件が絡んできて……。
「過去の自分を封印して生きる達人」という設定は、ハードボイルドものやアクション映画などの鉄板。『イコライザー』(14)も『ジョン・ウィック』(14)もこの流れといえるし、『アベンジャーズ』シリーズの人気キャラクター、バッキー(セバスチャン・スタン)もそう。バットマン然り、光と影を行き来するキャラクターはいつの時代も魅力的で、そこに江戸/明治の時代の推移を絡めた『るろうに剣心』は、実に巧みな設定だ(原作の連載開始は1994年だが、27年経ってもいまだに人気が衰えない。まさに時代を超えた魅力があるのだろう)。原作者の和月が大のアメコミ好きであるため、その辺りの影響もあるのかもしれない。
ただ、上に挙げたキャラクターたちがダンディズムあふれる設定なのに対し、剣心は真逆。ビジュアル的にも、冷徹な暗殺者とのギャップを出すため「女性に間違われるほどの優男(身長も160センチ未満と小柄)」「口癖は『おろ?』」など、可愛らしさを重視した設定が行き届いている。だが、『るろうに剣心』でも一瞬登場し、『るろうに剣心 最終章 The Beginning』では全編にわたって描かれる暗殺者=人斬り抜刀斎としての彼は、見た目も醸し出す雰囲気も狂気に染まっている。佐藤の抜擢には『仮面ライダー電王』のファンだった和月の希望も大きかったというが、なるほど彼が剣心としてスクリーンに登場した瞬間の微笑ましさは、そして後々見せる凶暴性は、剣心の完璧な三次元化といえよう。
加えて、非常に上手いのが「頬の十字傷」だ。この由来は『るろうに剣心 最終章 The Beginning』で詳しく描かれるが、剣心にとって忘れられない“事件”の跡。人斬り抜刀斎の時代に負った傷であり、犯した罪の象徴でもある。つまり、この傷が消えない限り、彼の贖罪の旅路は終わらない、ということを仄めかしてもいる。キャラクター設定にテーマ性を盛り込んだこのアプローチは、和月のキャラクターデザインの手腕を示している。実写化にあたり、違和感のない形で仕上げたスタッフ陣の功績も、非常に大きい。
ちなみに、原作では剣心は初登場時、28歳の設定。もともと、幕末の暗殺者というところから年齢が探られたが、「少年漫画の主人公が30歳越えなのはどうか」という意見が編集担当から出たため、物語に破綻をきたさないギリギリのラインで28歳に落ち着いたという。