(c)和月伸宏/集英社 ©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心』驚異のアクションで漫画実写化に革命を起こした、大人気シリーズ!
華麗な剣戟の中にも“重力”を混ぜ、身体性を付加
『るろうに剣心』は従来の時代劇アクションとは一線を画す作りになっており、ワイヤーアクション的なアクロバティックな動きが足されている。一世を風靡した『グリーン・デスティニー』(00)や『HERO』(02)から続く東洋型ワイヤーアクションの流れの発展形とみることもできるし、『ボーン・アイデンティティー』(02)辺りから隆盛した西洋の実践型リアルアクションの要素も足されている。
日本国内における従来の時代劇アクションでは、伝統的な「型」を重んじる動きが多かった。互いが一定の距離を保ち、見合って見合って一瞬で仕留める。いわば静から動の一瞬の転換が勝敗を分けるようなものだったが(この辺りの美学は、一撃必殺の斎藤の戦闘スタイルに生かされている)、剣心が使う飛天御剣流は、一対多数を想定した古流剣術であり、剣心の言葉を借りれば「剣は凶器、剣術は殺人術。どんな綺麗事やお題目を口にしても、それが真実」。つまり、最初から実践型なのである。
さらに、体躯が他の者に劣る剣心は、圧倒的なスピードで剣技を繰り出すことで勝利を収めてきたため(暗殺者向きともいえる)、日本の伝統的な戦い方だと、なかなか原作の“味”が出せない。その点、アクション監督・谷垣のセンスがいかんなく発揮された縦横無尽なバトルシーンは、スピード感も担保できつつ、飛天御剣流の派手な要素もカバーできる。そこに、“重力への意識”をちゃんと纏わせることによって、身体性が立ち上がってくるというわけだ。
ここで興味深いのは、『るろうに剣心 京都大火編』で初登場する瀬田宗次郎においては、この方程式を外しているということ。「“天剣”の宗次郎」の異名を持つ彼は、「縮地」と呼ばれる高速の移動術を用い、剣心以上の速度を誇る。剣心との戦闘においても、身をよじって剣を避けるのではなく、浮くように跳んで避け、異常なほど低い姿勢から剣戟を繰り出し、剣心を圧倒していく。超人的な動きを見せる剣心だが、そこには重力という“枷”が常在するのに対し、瀬田は月面にいるかのように軽々と跳びまわり、剣心を追い詰めていく。
両者のバトルは続く『るろうに剣心 伝説の最期編』でさらに過熱していくのだが、ここでは「揺れる船上の、細い通路」という舞台が用意され、バネのように猛スピードでくらいついてくる瀬田の動きを増長させていく。ここでは逆に剣心が重力を生かした動きで“年長者の格”を見せつける展開も用意され、両者の駆け引きが興味深い(『るろうに剣心 最終章 The Final』では、瀬田が再登場し、剣心と共闘する映画オリジナルのシーンも用意された)。
船上バトルでいえば、嵐の中で、剣心が多数の敵を相手取って甲板で戦うシーンでは、ブレイクダンスのような意表を突いた動きが組み込まれており、実に新しい。ここも、型にはまらない『るろうに剣心』流アクションを象徴するシーンといえよう。
なお、スーパーカーのような「ドリフト走行」は、前作を通じて踏襲され、進化してきたアクションのひとつ。『るろうに剣心 最終章 The Final』では、滑り込みながら高速で方向転換し、道の反対側にある建物の壁を駆け上るシーンや、屋根の瓦の上を全力疾走しながら斬りかかる「天井走り」(これは『るろうに剣心 京都大火編』で話題になった)、第1作の序盤で披露した「壁走り」など、シリーズならではの“型”がアップデートされ、詰め込まれている。