(c)和月伸宏/集英社 ©2020映画「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」製作委員会
『るろうに剣心』驚異のアクションで漫画実写化に革命を起こした、大人気シリーズ!
剣心の「過去」と「現在」を演じ切った佐藤健の力演
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』、『るろうに剣心』を連続で観ると改めて際立ってくるのは、佐藤健の「役を生きる」深度だ。一番若いころを演じなければならない作品が最後に来るという高難易度のミッションを完遂し、公開順的に最後の作品を最初の作品にしっかりと「つなげて」いる。
もともと佐藤は、大友監督と組んだ『龍馬伝』で演じた哀しみの人斬り・岡田以蔵役で各方面から絶賛され、本作へとつながっていった、という経緯がある。善から悪へと堕ちていく男を、時代劇の枠ですでに演じ切っているのだ(さらに元をたどれば、デビュー間もないころに出演した『仮面ライダー電王』(07-08)で、いきなり“複数人格”を演じる、という難役をこなしている。これが原作者の和月伸宏の目に留まり、『るろうに剣心』実写映画化の際に彼が剣心役の希望に佐藤を挙げたのだとか)。
物語の流れに関しても実に巧妙なつくりになっており、冒頭できっちりと作品の本質を示した後は、あえて軽快なコメディの方向にもっていき、江戸から明治の時代の変化を、作品全体のテンションで魅せる。動乱を乗り越え、伝説の人斬りが「おろ?」とのんびりできるような泰平の世に移ったということ。剣心が道場で悪鬼の徒を瞬殺するシーンはアクロバティックなシーンの連続で興奮させられるが、トーンとしては王道のヒーローもののようにカラッと描いてもいる。ここも、冒頭の重厚感あふれるシーンからかなりの落差があり、興味深い。
しかし当然ながら、これも一種のブラフというか伏線になっており、剣心が本物の猛者に遭うと、作品の雰囲気はぐっと重く、シリアスに。かつての宿敵だった元・新選組の斎藤一(江口洋介)との手合わせでは、雨中で肌がひりつくような剣と言葉のやり取りを交わすし、隠密の外印(綾野剛)とのバトルでは、前半の穏やかな笑顔とはまるで別人の、鬼気迫る表情を剣心は見せていく。戦闘の中で、かつての「抜刀斎としての自分」がちらつく演出は、本作の真骨頂だ。
しかも、徐々に剣心の中で抜刀斎の比率が強くなっていき、クライマックスの強敵・鵜堂刃衛(吉川晃司)との死闘では、剣心がダークサイドに落ちてしまう。彼はそこから、どう剣心に戻ってくるのか? ここに至るまでの布石が丁寧に作りこまれているため、観客も物語の行方を固唾をのんで見守ってしまうことだろう。
もう1点紹介したいのは、着物の使い方だ。原作では、剣心は初登場時からトレードマークとなる赤い着物を着ている。しかし、この映画ではあえて原作を踏襲しない。地味な着物で登場した剣心が、赤い着物に着替えることでヒーローとして完成する、その流れを視覚的に示しているのだ。
これは、もともと「剣心=赤い着物」というイメージが刷り込まれているからこそ試せる演出であるし、そういった意味で原作への深い敬意がうかがえるのだが、同時に『スパイダーマン』や『アイアンマン』などのアメコミ映画が見せてきた「スーツの大切さ」をも内包しており、実に爽快。
日本のバトル漫画のように必殺技を叫ばないアメコミは、そのぶん「スーツに着替える」行為が、重要な意味を帯びている。それらの方法論を組み込んだ本作は、原作ファンにとっても新鮮な驚きを与えてくれたのではないだろうか。