こだわりの美術、革命的だった視覚効果
多くの試練を乗り越えて、制作が始まった『ロード・オブ・ザ・リング』。
本シリーズの撮影は400日以上にもわたり、ニュージーランドの広大な土地を使って行われた。主人公フロド(イライジャ・ウッド)たちが暮らす「ホビット庄」は、撮影数ヶ月前から建築され、風雨にさらすことでリアルな質感が出るようにするなど、制作陣のこだわりは相当なもの。今観ても、ファンタジーでありながら視覚的に「本物の世界」と体感できるものになっている。いわば、ハリボテ感やとってつけた感はまるでないのだ。世界観の構築に腐心した結果が、今もなお深く愛されるゆえんの1つになったといえるだろう。
本シリーズで有名になった、WETAデジタルの功績も大きい。元々はジャクソン監督によって設立されたVFX工房で、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの視覚効果を手掛け、3部作すべてでアカデミー賞視覚効果賞を受賞。今や『アバター』(09)やMCU、DC映画などにも携わり、映画業界においてなくてはならない存在に成長した。
合戦シーンも多い『ロード・オブ・ザ・リング』では、群衆のCGキャラクターに「思考」をもたらし、「戦場から逃げ出す者もいるようにインプットさせた」という。また、やはり画期的だったのは、名物キャラクターのゴラム。CGとモーションキャプチャを組み合わせたこのキャラクターは革命的で、以降の映画制作に多大な影響を与えた。
キャストを見てみると、クリストファー・リーやイアン・マッケランなどのベテラン勢が並ぶが(マッケランが演じたガンダルフ役は、もともとショーン・コネリーにオファーしていたが辞退されたという)、ヴィゴ・モーテンセン、イライジャ・ウッド、ショーン・ビーンなど渋い面々が目立つ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(89)で映画デビューしたイライジャ・ウッドは、『危険な遊び』(93)や『8月のメモワール』(94)、『ディープ・インパクト』(98)に出演した子役出身のスター。ジャクソン監督サイドにオーディションビデオを送り、フロド役をつかんだという(ジェイク・ギレンホールもオーディションに参加していたそうだ)。ちなみに、フロドの相棒サム役のショーン・アスティンも、『グーニーズ』(85)などの子役出身。
また、本作で大ブレイクしたレゴラス役のオーランド・ブルームは、演劇学校を卒業した2日後にオーディションに合格。同時期に『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズにも出演し、世界的な人気を決定づけた。
ベテランに子役出身、ライジングスター。さまざまなバックボーンを持つキャストたちは強い絆で結ばれ、仲間のしるしとしておそろいのタトゥーを入れたというのは有名な話だ。
なお、予告編がオンラインで世に放たれた際には、24時間で170万回再生されたとか。また、アメリカ映画協会が2008年に発表した各ジャンルのトップ10では、ファンタジー部門の第2位に選出。1位は『オズの魔法使』(39)、3位は『素晴らしき哉、人生!』(46)と不朽の名作に挟まれる形となり、本作の評価のほどがうかがえる。