指輪という“力”に、独りで挑まないという光明
『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する指輪とは、何なのか？ 富や権力……個々人によって異なるだろうが、端的に言えば“力”の象徴といえるだろう。
冥王サウロンの手先となったナズグル（指輪の幽鬼）はもともと人間だったが、指輪に魅入られてクリーチャー化した。ボロミアも、エルフの女王ガラドリエル（ケイト・ブランシェット）も、指輪を前にすれば自我を失いかけた。耐性が強かったフロドでさえ、終盤には精神が崩壊した。サウロンの指輪とは、それほどに甘美で凶悪な存在なのだ。そしてこれは、決して絵空事とは言い切れない。
あくまでフィクションではあれど、力に取りつかれて人が狂う姿は、私たちは知識としても体感としても、よく見知っている。身近な友人やSNSで見聞きする事柄から、史実に至るまで――。「指輪物語」が生まれる前も、現在に至るまでも、力に取りつかれる人は後を絶たない（トールキン自身も戦争経験者であり、複雑な思いもあっただろう）。むしろ力を追い求めることこそが、「人間の本質」ともいえる。渇望は、進化を促す原動力ではあるが、飲み込まれてしまえば独裁的になりかねないのだ。
例えばネット社会において、我々は「拡声器」というツールを手にしたようなものだ。それぞれが、検閲なしに他者を批判し、攻撃し、誹謗中傷できるようになった。善い行いを拡散できる一方で、個人を追い詰める武器を得てしまった今、私たち個人個人の前には、あの指輪が浮かんでいるのかもしれない。これはあくまで一例だが、『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する指輪には、私たちのほの暗い欲動を増長させる危険性が内包されている。だからこそ、この物語は、単なるおとぎ話としてではなく、もっと奥深い“教訓”としても人々の心に刻まれてきた。
ただ、『ロード・オブ・ザ・リング』はその“怖さ”を突きつけつつも、それ以上に尊い「友情」と「自己犠牲」に、希望を見出す。9人の“旅の仲間”は、種族を超えて結ばれた平和の架け橋だ。指輪の魔力に屈せず、自らの命を投げうち、世のため人のために動いた者たちが、確かにいたということ。そして、彼らに動かされ、立ち上がった者たちがいたということ。いつの時代も闇はそこにあるが、抗おうとする存在も同時に生まれる。それもまた、動かしがたい事実なのだ。
『ロード・オブ・ザ・リング』のロードとは、Lord、つまり「主（統べる者）」を指す。これが単にサウロンを指す言葉ではないことは、観た者皆が知るところだ。誰が指輪を手にするか、そしてどう使っていくか。さらには、1人で抱えずに、或いは独占せずに、どう他者を頼り、分かち合っていくか。個人ではなく、仲間で動く――。本シリーズが問いかけるテーマと1つの解答は、映画の価値とともに、この先も語り継がれていくことだろう。
混迷の世を往く者に、“旅の仲間”はきっと現れる。
我々は、独りではない。
参考：
http://www.kogyotsushin.com/archives/alltime/
http://www.eiren.org/toukei/2002.html
https://www.afi.com/afis-10-top-10/
文： SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライターに。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」等に寄稿。Twitter「syocinema」
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THE LORD OF THE RINGS, THE FELLOWSHIP OF THE RING, and the names of the characters, events, items and places therein are trademarks of The Saul Zaentz Company d/b/a Tolkien Enterprises under license to New Line Productions, Inc. The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring (c) 2001, Package Design(c) 2010 New Line Productions, Inc. All rights reserved.
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