『アメリ』(01)
お焦げを潰したくなるクリーム・ブリュレ
監督:ジャン=ピエール・ジュネ 出演:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ
内気で引っ込み思案、恋人がいなければ友達もいないアメリ(オドレイ・トトゥ)。そんな彼女の数少ない楽しみは、金曜の夜に映画館に足を運び、映画を見ている人の顔を眺めること。豆袋に手を突っ込むこと。サンマルタン運河で水切りをすること。そして、クリーム・ブリュレのお焦げを潰すことだ。
クリーム・ブリュレは、フランス語で文字通り“焦がしたクリーム”という意味。トロトロのカスタードの上にパリパリのカラメルが乗る、二重奏の味わい。当時日本ではまだ馴染みのなかったこのお菓子は、『アメリ』を観た女の子のハートを完全に鷲掴みする。瞬く間にクリーム・ブリュレを出す店が激増し、ちょっとした社会現象に。今ではコンビニやファスト・フードでオリジナル商品が楽しめるほど、定番スイーツとして浸透した。「クリーム・ブリュレのお焦げを潰す」シーンはわず数秒程度だったにも関わらず、その爆発的波及力はハンパなかったのである。
『アメリ』の大ヒットによって、ファンタジー系フィルムメーカーとして認知されてしまったが、監督のジャン=ピエール・ジュネはもともとブラックユーモアの“クセがすごい”作家。『デリカテッセン』(91)は核戦争後のパリを舞台に、人肉を売るデリカテッセンを描いたドギツイ映画だった。そんな彼のフィルモグラフィーから、世界中の女子を釘付けにするようなスイーツが誕生するとは…。つくづく意外なり。
なお、アメリが働いている「カフェ・デ・ドゥー・ムーラン」は、パリ・モンマルトルに実在するカフェ。店内には『アメリ』のポスターや写真がたくさん飾られ、映画ファンの聖地となっている。もちろん名物料理は、カリカリお焦げのクリーム・ブリュレだ。