観たいアニメーション作品は、制作スタジオで選ぶ。この視聴スタイルは、いまや多くの人々にとってメジャーなものになってきている。「作画」や「演出」といった言葉が、視聴者の中で頻繁に交わされる時代になってきた。
そんな中で、なお一層輝きを放つアニメーション制作スタジオ、ボンズ。1998年に設立された同社は、『交響詩篇エウレカセブン』(05~)や『 僕のヒーローアカデミア』(16~)といったヒット作を次々と手掛け、その外連味あるバトル演出や、クオリティの高さで、長きにわたり圧倒的な支持を誇る。
そのボンズが、なんと田辺聖子氏の名著「ジョゼと虎と魚たち」のアニメーション映画化にチャレンジした。『おおかみこどもの雨と雪』(12)助監督や『ノラガミ』(14~15)シリーズの監督、『文豪ストレイドッグス』(16~19)のOP映像を手掛けたタムラコータローを監督に迎え、脚本は恋愛ドラマの名手・桑村さや香、キャラクター原案は『荒ぶる季節の乙女どもよ。』の絵本奈央が、そしてキャラクターデザイン・総作画監督は『クジラの子らは砂上に歌う』(17)の飯塚晴子が担当。
少々意外にも思える組み合わせだが、作品にはボンズらしい流麗な動きの演出、カラフルな色彩、そして何といっても、陶酔させられるほどの画の美しさがあふれ、彼らの表現力を再認識させられる。
今回は、「CINEMORE ACADEMY」の最新エピソードとして、ボンズの代表取締役である南雅彦氏にボンズ本社にお邪魔して単独インタビュー。アニメーションの“作り方”から、現状のアニメ界の分析、世界を見据えた今後の目標に至るまで、じっくりと語っていただいた。
Index
- 「ボンズ=異能力バトル」というイメージに対して
- 原作のファンタジー性とアニメならではの表現は好相性
- スタッフの人選に、監督の“狙い”が見えてくる
- スタッフ一人ひとりが「ボンズらしさ」を形作る
- 自由すぎてアイデアが生まれにくいアニメ界の現状
- 世界に届けられる環境に見合った作品を作り続けたい
「ボンズ=異能力バトル」というイメージに対して
Q:アニメファンの多くが、「ジョゼと虎と魚たち」のアニメーション映画化をボンズが手掛けると聞いて、驚いたのではないかと思いますが……。
南:はい、その通りですね(笑)。
うちの会社のイメージって言ったら、アクション、爆発、ミサイル、ビーム、血、斬る、日本刀とかですからね(笑)。
Q:『僕のヒーローアカデミア』や『文豪ストレイドッグス』もあり、「異能力バトルもののボンズ」と呼ばれていますものね。
南:そうそう。特に3・4年前は、『ヒロアカ(僕のヒーローアカデミア)』『文豪(文豪ストレイドッグス)』『モブサイコ100』(16)と、たまたまなんですが超能力ものが立て続きましたからね(笑)。オリジナル作品でもロボットものをやっているから、そういうイメージを持たれているかとは思うんですが、会社自体がジャンルにとらわれて作品を選んでいるわけではないんです。
向き不向きの面で、アクションもののお話をいただく機会はありますが、『桜蘭高校ホスト部』(06)や『SHOW BY ROCK!!』(15~16)のような作品もやっていますからね。そこにアクションを入れてしまうのがうちの手癖ではありますが(笑)。
『ジョゼと虎と魚たち』に関して言うと、まずタムラ監督とKADOKAWAさん、うちのプロデューサーから「『ジョゼと虎と魚たち』を作りたい」という案が自分のところに上がってきました。さっきも言ったように、そこまでジャンルにとらわれているわけではないので、その時何を考えたかというと、「この小説を、“ボンズが”アニメーションという映像表現で長編映画化したとき、どういうものになるんだろう」ということです。
タムラコータロー監督 ボンズ本社にて
タムラ監督に関しては『ノラガミ』を2シーズンやってもらったので力量は把握しているし、彼が現代劇にチャレンジするのは、制作の立場からしても興味がありました。だから、僕たちとしては田辺聖子先生の小説をアニメ化することに対して、驚きはなかったです。自分たちでやってるから、驚きも何もないか(笑)。
ただ、世間的には……やはり『ヒロアカ』や『モブ(モブサイコ100)』などのアクション作品が多いですし、「劇場作品っていうなら、『エウレカ』の新作はいつできるの?(『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』。2021年公開)」という声もあるでしょうから(笑)、びっくりされたとは思います。