フィルム撮影がもたらす良い緊張感
Q:パイロットフィルムでの撮影で、すでに16ミリフィルムを使用されたとのことですが、現場での手応えはいかがでしたか? (※4月取材時点、現在は本編第一回撮影も終了)
塚田(監督):私は、生で役者さんの演技と空間を見ることが最強だと思っているので、もともと現場ではあんまりモニターを見ないんです。特にフィルムの場合は、画はカメラマンが全部見ていて、その場では見返すことができないので、その場で起きている一瞬の生ものを絶対見逃せない。その緊張感がとても好きですね。
また、フィルムに焼き付けるための光の扱いもとても繊細で、撮影部や照明部などのスタッフがとても敏感になっているんです。美しくはかないものの一瞬を、絶対撮り逃してはならないという緊迫感がスタッフに漂っている。ヨーイ・スタートで始めた一瞬の重みをすごく感じますね。
芳賀(撮影監督):フィルムの現場は、創造(クリエーション)だけでなく、想像(イマジネーション)も必要ですね。フィルムは現像が必要なので、映っているものがどういう状態になっているか、現場では分からない。それを想像していくことが非常に重要だと感じています。
一応、16ミリフィルム用のモニターを現場に用意はしたのですが、あくまでファインダー内を簡易的に映すSD画質のものなので、撮ったものを4Kで見られるデジタルのモニターとは、画質に雲泥の差があるわけです。スタッフの多くは、デジタルの綺麗なモニターに慣れているので、16ミリのモニターの画質を見ると不安になるみたいですね。もちろん、「このモニターの画が最終じゃなくて、現像したら全然違う映像になります。」と説明はするのですが、不安になる気持ちもよくわかります。
例えばフォーカスひとつとっても、モニターだけで合わせることはできないので、しっかり距離を測って計算して撮るのですが、でも本当にフォーカスが合っているかどうかは現像するまで分からない。光の露出も同じで、もし間違っていたらちゃんと映ってないわけです。そういった意味では、すごい緊張感が生まれますね。
(c)映画「刻-TOKI-」実行委員会
デジタルよりも難しい部分がたくさんあるので、必然的にチーム一同で対応する必要がある。それで、現場の熱量がすごく高まった部分もあると思います。
また、モニターに頼れないということは、僕がのぞいてるファインダーの世界が非常に重要になってくるわけです。ひとつの画、世界を作るということが、重い責任を伴うとともに、一方で、フィルムが回ってシャッターが切られていくのを、カメラマンの僕だけがファインダーを通して見ることが出来る。このことは非常に中毒性の高い作業だと感じています。
大学時代の実習で、初めて16ミリフィルムカメラのファインダーをのぞいたとき、フィルムが回りシャッターがカラカラなる音が耳元でして、自分だけがこの世界を見ていると思った瞬間、大変な中毒になってしまったんです。何だか脳が焼けるような体験でしたね。
撮っている人間のこのような心情は、すごく画に映るので、そういった高揚感や使命感などがより焼き付きやすいのが、フィルムなんだと思います。
Q:確かにデジタルで撮ったものは、プレビューも全てデジタルだから綺麗ですよね。撮ったものがすぐに見れないというのは、今はなかなか理解しづらいでしょうね。
今井さんは現場の雰囲気をどう感じましたか?
今井(プロデューサー):やっぱりフィルム好きが集まっているので、みんなが撮影を楽しんでるのが分かりましたし、それは嬉しかったですね。フィルムで撮っていると、“映画を作っている!”という感じがすごくするんです。
また、芳賀さんも塚田さんも言うように、現場にいい意味の緊張感がありました。そこには、テイクを失敗するとフィルムがもったいないという予算的な緊張感もあるんです。また、出演者に子どもが多いので、あまり遅くまで撮影できないということもあり、塚田さんの演出も良かったのか、テイクをあまり重ねることなく撮影はスムーズに進みました。適度の緊張感があったことが良い方に働いたのかもしれません。
デジタル撮影だと多少暗くても映るので、低予算の場合は照明を省くことがあるのですが、今回はフィルムなのでちゃんと照明を入れる必要がある。もちろん予算的に必要最低限のスタッフと機材でやっているのですが、それでもちゃんと照明を入れることによって、より映画っぽい画になっている気がしますね。