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16ミリフィルムが秘める新たな映像表現の可能性 映画『刻』の挑戦【CINEMORE ACADEMY Vol.17】

(c)映画「刻-TOKI-」実行委員会

16ミリフィルムが秘める新たな映像表現の可能性 映画『刻』の挑戦【CINEMORE ACADEMY Vol.17】

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増えてきた16ミリフィルム撮影



Q:ここからはイマジカさんやコダックさんを中心に、技術的な話をお伺いできればと思います。以前、映画館での上映形態がフィルムだった時は、フィルムが最終完成品でしたが、今はほとんどの映画館がデジタル上映なので、完成品はデジタルデータです。この、デジタルでのポストプロダクションや、グレーディング技術の向上などは、16ミリフィルムでの映画撮影に新たな可能性を提示したのではないかと思っていますが、その辺りについてお聞かせください。


井上(イマジカ):文化庁が支援している短編制作ではフィルムで完成させることはありますが、残念ながらそれ以外ではフィルムでの完成はないですね。また、グレーディングについてですが、フィルムで色調整をしていた時は、アナログ的なフローになるので、全体的にしか色を触れなかったんです。それがデジタルでできる今は、暗部や中間層、ハイライトなど、部分的にいくらでも触れるようになりました。


おっしゃる通り、今はフィルムで撮影しても、スキャンしてデジタルに取り込み最終的にはデジタルで仕上げているのですが、一方で、グレーディングで何でもかんでも変えてしまうのはすごく危険だなと思っています。フィルムで撮影した場合のグレーディングは、ある程度フィルムの良さを生かして作業するようにしています。


Q:なるほど、万能がゆえの弊害もあるということですね。また、CMを除いてあくまで日本映画という視点だけで言うと、35ミリでのフィルム撮影はほぼ無くなってきているのではないかと思いますが、現在の日本における、35ミリフィルムと16ミリフィルムの状況を教えてください。日本においては35ミリよりも16ミリの方が活躍しているのはないでしょうか? 


山本(コダック):今はコロナ禍の影響もあるのですが、日本映画では16ミリフィルムと35ミリフィルムで比較すると、16ミリの方が断然多いですね。フィルムで撮りたいという企画があった場合、予算的な都合で16ミリを選択される場合が多いのだと思います。ちなみに2021年に公開される劇場用映画で35ミリ撮影のものは、写真家の上田義彦さんが監督された『椿の庭』と、役所広司さん主演、小泉堯史監督の『峠 最後のサムライ』の2作品があります。


『峠 最後のサムライ』予告


Q:以前は16ミリフィルムというと、どうしても古い昔の映像に見えてしまう印象があったのですが、最近の16ミリの活躍は何か要因があるのでしょうか? 


山本(コダック):まだ映画館でフィルム上映されていた時は、16ミリフィルムで撮ったものをブローアップ(引き伸ばし)して、35ミリフィルムにプリントして上映していたのですが、DCPでのデジタル上映が主流になったことによって、ネガからダイレクトにスキャンしてデジタル化していく流れが確立されました。16ミリでもより良い状態でデジタル化できるようになったので、その影響は大きいと思いますね。


Q:35ミリフィルムは、感度などのスペックが最近でも向上していると聞いたことがありますが、16ミリフィルムもスペックは上がっているのでしょうか。


山本(コダック):35ミリも16ミリも同じマスターロール(原反)から裁断するので、フィルム幅が異なるだけでスペックはどちらも同じなんです。また、2007年にコダックVISION3という技術を発表し、2011年までの間に500T, 250D, 200T, 50Dという感度が異なる4種類のフィルムを発表しました。それからここ10年くらいは、実質的にこのスペックに変更はありません。むしろ一貫して同じスペックで製造することが求められていますね。 


Q:現像工程はどうでしょう? 内容的には以前と変わってないのでしょうか。


井上(イマジカ):そうですね。現像は100年以上前に培われたフィルムの技術なのですが、工程自体は特に変わっていません。現像工程で、減感したり増感したり、銀残しと言われる特殊な現像をすることもありますが、それも昔からある方法です。


ただ最近では、デジタルで撮影したものをフィルム化する、「フィルムレコーディング」という技術がありまして、デジタルで撮ったものをフィルムにして、さらにそのフィルムをスキャンしてデジタル化することもあります。フィルムルックを求めるがゆえのフローですね。


Q:それはすごいですね。撮影現場でフィルムを使うよりも、その方法がコストダウンできるということなのでしょうか?


井上(イマジカ):そうですね。現場ではどうしてもNGテイクなども出てくるので、一旦デジタルで撮影して、その後ある程度粗く編集をした上で、必要な部分だけをフィルム化しています。コストの面でも優位性のあるフローだと言われています。




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