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16ミリフィルムが秘める新たな映像表現の可能性 映画『刻』の挑戦【CINEMORE ACADEMY Vol.17】

(c)映画「刻-TOKI-」実行委員会

16ミリフィルムが秘める新たな映像表現の可能性 映画『刻』の挑戦【CINEMORE ACADEMY Vol.17】

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主観映像に向かないフィルム撮影



Q:では一方で、フィルム撮影の現場で不便だったことはありますか? もしデメリットを感じることなどがあれば併せて教えてください。


塚田(監督):今は16ミリフィルムのカメラを貸し出してくれる機材屋さんがどんどん少なくなっていて、それが進むとレンタル費も高額になってしまうかもしれないことがデメリットですかね。また、デジタルと違って、撮ったものを自分たちでパソコンに取り込むことができないので、まずは現像してもらう必要がある。その現像所(ラボ)も、『刻』を撮る今後10年間は稼働していただかないと困りますね。機材とラボが減ることによる、今後かかってくるであろう予算も心配です。


Q:演出的に現場で困ったことはなかったのでしょうか。


塚田(監督):私はなかったですね。デジタルだと見返せてしまうのですが、私はむしろ現像が上がってくるまで見たくないんです。見返すことで、現場で見た生の演技が何かすごく揺らいでしまう感じがして、あんまり好きじゃないんです。



(c)映画「刻-TOKI-」実行委員会


Q:撮影監督としては何か不便な点はありましたか?


芳賀(撮影監督):カメラ本体がどんどん古くなっているので、ファインダー越しでピントが確認しづらくなっていますね。加えて、機材屋でカメラ本体の扱いがどんどん少なくなってきているのが不安です。


また、これはあくまで個人的な意見ですが、16ミリフィルムでは、主観の映像が撮りづらいと感じています。人間が見ている風景には“粒子”というものは存在しておらず、高画質で綺麗なデジタル映像を見ているのに近いんです。16ミリフィルムだとすごく粒子の荒い画になってしまうので、主観の映像を撮ったとしても、どうしてもカメラのレンズ越し、フィルム越しに見た風景にしかならないのかなと思っています。


Q:なるほど、16ミリフィルムが主観映像に合わない。という意見は初めて聞きましたが、 そういう考え方は興味深いですね。


芳賀(撮影監督):余談ですが、デヴィッド・フィンチャー監督が以前フィルムで撮影していた時、現場のモニターに映っている映像はすごく粗いのに、ラッシュで見ると美しい映像になっていて感動したらしいのですが、でもたまに、自分の想像より悪い映像になってしまっていることもあって、技術スタッフに不信感を抱いたことがあったらしいです。だからフィンチャーはそれ以降はデジタル撮影に切り替えて、現場で映像の“あがり”をしっかり確認するようになった。


そう考えると、デメリットが必ずしもデメリットじゃなかったり、メリットが時にはデメリットになったりすることもあるので、とにかくフィルムの場合はすごくデリケートな現場になるなという印象がありますね。


Q:私も『サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ』(12)というドキュメンタリーで観たのですが、フィンチャーの場合は画質や質感でフィルムからデジタルで乗り換えたのではなく、現場で“あがり”の画を確認できるという理由でデジタルにしていると、その理由も意外で面白かったですね。


今井さんは何か不便に感じたことはありましたか?


今井(プロデューサー):機材に関して言うと、取り扱っている機材屋さんは確かに減っているのですが、レンタル費自体はすごく安いんです。デジタルカメラのALEXAやREDなどのレンタル費に比べたら全然安いので、そこの部分はむしろメリットではないかと思っています。ダーレン・アロノフスキーの『ブラック・スワン』(10)も、予算がないからデジタルではなく16ミリフィルムで撮ったらしいです。


『ブラック・スワン』予告


デジタルカメラは機種がたくさんあるので、ALEXAやREDなどにこだわらなければ安いカメラはいくらでもあるのですが、劇場で公開することを考えると使用は厳しいですね。安いデジタルカメラを使って照明も無くして、としていけば、どんどん安くなりますが、果たしてそれでいいのかと。


僕にとって重要なのは、コスト削減ではなく、いかに面白いものを作るか、いかに塚田監督が作りたいものを作れるかなので、16ミリフィルムで撮るデメリットはあんまり感じてないですね。




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