もう一度、インディペンデント魂を取り戻す
Q:そうしたシリアスさとエンタメの塩梅は、かなり苦心されたのでしょうか。
入江:『シュシュシュの娘』に関しては、ほぼ初稿から変わっていないんですよ。というのも、いま仰っていただいた部分のバランスを考え出すと、結局商業映画の構成に近いものになってしまうんです。だから、あえて意識せずに2晩くらいでガッと書いて、それ以降直しませんでしたね。
Q:非常に面白いお話です。ちょっと気になったのですが、商業映画に慣れ過ぎてしまうと、そうした実験精神というかインディペンデント魂が削れていかないものなのでしょうか。いざ自主映画をやる、となったときに「戻れない……」となる方もいそうだなと思って。
入江:よくぞ言って下さいました。僕自身、そうなるのがすごく怖かったので、実は「コロナだから」というのはそれほど関係ないんですよね。むしろ、このタイミングだから自主映画を作りたかった。
『シュシュシュの娘』© Yu Irie & cogitoworks Ltd.
商業映画だと、ものすごくたくさんのスタッフが支えてくれて、ロケ地を探すにしろそれ専門のスタッフがいて交渉事を引き受けてくれる。プロデューサーもいっぱいいるから責任が分散されますよね。自主映画だと、そうはいきません。誰かが病気になったり、けがをしたら全部僕の責任になります。そういった部分も含めた「インディペンデント魂をもう一度取り戻せるか」を、自分に課していました。
Q:『SR サイタマノラッパー』シリーズから継続されているかとは思いますが、『シュシュシュの娘』に伴う入江監督のものづくりの姿勢に、勇気づけられる方は多いと思います。
入江:そうだと嬉しいですけどね。「あいつまた変なことやってるな」と思われないかな(笑)。でも、早計というか、軽はずみに動いたほうがいいんじゃないかという想いもありました。笑われてもいいから「そういうこともできるんだ」というサンプルを提示出来たらと考えています。