スタッフの多くはフリーランス。精神論では無理がある
Q:そんな中で、ベテランのスタッフさんが学生の皆さんにレクチャーする時間を作ったこと、とても素敵だと思います。
入江:ベテランのスタッフさんたちも若い子たちが来ないことに危機感を抱いていて、助手捜しにすごく苦労しているんです。今回、例えば美術だったら脚本の読み込みから具体的なものを用意する、といったプロセス含めて説明していただいたり、プロデューサーとはこういう仕事で、といったような座学から入って、現場で実践してみてといった手順を踏みました。
Q:とても手厚いですね。なかなか難しいかもしれないけれど、本来、現場ってきっとそうあるべきですよね。
入江:昭和のいいところでもありますが「習うより慣れよ」的な、現場にいきなり放り込んで「見て学べ」というような職人気質な世界だったので、その辺りも変わっていけると良いなと思います。
すごく嬉しかったのは、撮影期間に色々学んでくれた子たちが、終了後にすぐに自主的に映画の世界に入ってくれて、そのうち2人くらいはもうプロのスタッフとして働きだしているんです。
『シュシュシュの娘』© Yu Irie & cogitoworks Ltd.
Q:素晴らしい! 未来への継承ですね。入江監督の中で、旧態依然とした制作環境を変えなければという想いも強かったことが伝わってきます。
入江:『聖地X』を韓国で撮って、その前の『ジョーカー・ゲーム』(15)はインドネシアで撮っているのですが、海外で撮ると日本の制作環境が遅れていると痛感するんですよね。食の部分もそうですし、なんでなんだろう?とずっと思っていました。太平洋戦争の際の食糧難もそうですが、日本人の国民性なのか、精神論で乗り切ろうとするところを感じます。
それは時として大事なことだけれど、海外の現場だと「みんなでちゃんとご飯を食べて、休む」も大事な“仕事”なんですよね。そこでお互いの顔色を見たり、コミュニケーションが生まれるわけですし。いまや国内の映画スタッフの多くが撮影所所属ではなくフリーランスなので、どこか職人気質な雰囲気自体が、合っていないようには思います。
『聖地X』予告
Q:入江監督ご自身は、国内の映画制作環境の現状について「変わってきている」とポジティブな感覚を抱いていますか?
入江:いや、まだまだだと思いますね。ただ、こうした制作環境について皆さんと話す機会も増えましたし、メディアの方々が取り上げて下さる機会が増えました。「改善していこう」という空気感が生まれてきたようには感じています。これがどんどん拡がっていくと、プロデューサーなり映画会社も「もういい加減変えなければ」と気づくと思います。
Q:ムーブメント化していくというか、一枚岩になれたらいいですよね。
入江:そうですね。今はまだ各監督や俳優さんが個人発信している感じがあるので、それが繋がって改善していければと願っています。
コロナは良い意味でも悪い意味でも、ふりだしに戻した感があるといいますか、「もう1回考えよう」という機会になりましたよね。ミニシアターの経営もそうですし、制作の体制も、色々なことを変えるチャンスになったと思っています。