映画はお祭り。コロナ禍でも、悲壮感は出したくない
Q:キャスティングについてもぜひ伺わせてください。約2,500名もの応募があったそうですね。時期的なことも考えると、多くの方にとって希望になったからこそ、この数字になったように思います。
入江:パソコンの中に専用のフォルダをつくって振り分けていたのですが、毎日チェックしないと追いつかないほど多かったですね。ずっとパソコンにかじりついて、志望動機やプロフィールに目を通していました。コロナ禍で舞台やドラマが飛んだ、という方がやはりたくさんいましたね。名前を聞いたらわかるような有名な方も多かったです。
Q:応募者の皆さんの意気込みを読んでいると、感情が動く瞬間が多かったのではないですか?
入江:胸が苦しくなる言葉が多くありましたね……。「俳優を目指して上京してきたけど、活躍の場はおろかバイトはできないし学校にも通えない」というような現状を教えてくれる方もいました。でもこちらとしては役を求めている方を落としていく作業をしなければならない。そこはすごく心苦しかったです。
『シュシュシュの娘』© Yu Irie & cogitoworks Ltd.
Q:とはいえ、入江監督は書類→リモート面談→対面のオーディションと三次選考まできっちり手順を踏まれた。おひとりで選考するにもかかわらず、簡略化せずに一人ひとりの応募者としっかり向き合ったという印象です。
入江:でも、応募してくれたけども今回は叶わなかった全員に「なぜ選ばれなかったのか」を、本来だったらちゃんと伝えたかったです。一人ひとりと直接顔を合わせたかったですね。
改めて、2020年は、ニュースや数字で表れてくる以上に、様々な人の心に影響を与えたんだと感じました。
Q:そんななか、クラウドファンディングは1,192万円に到達しました。凄い数字ですよね。また、リターンの内容も「NGカット集」「コーヒー奢ってやるよ券」など、斬新なものが並びます。
入江:リターンの内容については、アシスタント的なポジションで入ってくれた20代の子たちと一緒に考えていきました。「自分だったらどういうものをもらえたら嬉しいか」を出してもらいましたね。よくあるものだと試写会の招待や観賞チケットなどですが、「自分が支援したお金で、現場のスタッフ・キャストが美味しいものを食べていたら嬉しい」という意見が出て、これは面白い!と取り入れたんです。
コロナ禍で自主映画を作る、というときに悲壮感が出てきたらいやだなと思っていたんですよね。楽しいから映画を作るのであって、そういう工夫をしましたね。
Q:オリジナルコーヒーも作られて、素晴らしいなと思いました。こういう状況になるとどうしても自分が属する業界のことばかり考えてしまうけれど、映画は本来、様々な分野を巻き込んでいく“お祭り”ですもんね。
入江:そうなんですよね。本当に今回の作品を通して、ギブアンドテイクだなと感じています。飲食業界の皆さんも大変な中、お店にポスターを貼ってくれたりして、本当にたくさん応援してくれて勇気づけられましたし、多くの発見がありました。
いまおっしゃってくださったように、お祭りなんですよね。でも商業映画を長くやっていると、良くも悪くもルーティン化してしまう。『シュシュシュの娘』で、原点を思い出せた気がしています。