固定カメラの演出に込めた、「どこを観てもいい」想い
Q:『シュシュシュの娘』の中身についても伺えればと思いますが、作品を拝見した際にFIX(固定)の“引き”の画が意識的に取り入れられている気がしました。そのことが、地方都市に暮らしている生活感を生み出しているように感じます。
入江:カメラをなるべく動かさないようにしたいなと思っていて、脚本段階で「FIXで」というのは書いていましたね。パン(カメラの横への首振り)や俳優さんのフォローはやめようと話していて、ここぞという瞬間だけにとどめました。
やっぱり自主映画だから挑戦的なことをしたくて、会話のシーンでもカットバックして交互に表情を撮る、といったオーソドックスなスタイルはあえて避けましたね。「どこまで風景の中に人を置けるか」を追求しました。
あとはやはり、家にいなきゃいけない空気が強かったじゃないですか。だからこそ、自然の中にいる人を撮りたかったし、自分たち自身も開放感がありましたね。映画ってジャンルによらずドキュメンタリーだと思う瞬間が多くあるのですが、俳優さんやその季節、もう少し大きいところでいうと2020年という時代をとじ込められた気はしています。10年後に観たときにも「コロナの時期に撮ったんだ」ということは作品に宿っているでしょうし。
『シュシュシュの娘』© Yu Irie & cogitoworks Ltd.
Q:「観る側の視点を強要しない」というところも本作の特長で、それがすごくミニシアター的だなと思います。ミニシアターのファンの皆さんって、劇場によってお気に入りの席があるじゃないですか。その気質と、『シュシュシュの娘』は親和性が高い。好きな席に座って楽しめる映画だと感じました。
入江:嬉しいです。「どこを観てもいいよ」というのは、僕も目指していたところですね。
僕も映画館ごとに好きな席があります。ここは前の方で観たいとか、端っこで観たいとか、ありますね。あと、ミニシアターはコミュニケーションがとりやすい場でもあるじゃないですか。製作者や配給とお客さんの距離が近いからトークイベントなどでも活発なQ&Aが生まれるし、そうでなくてもお客さんが『シュシュシュの娘』について劇場のスタッフさんに質問してくれたら嬉しいですね。
Q:ミニシアターは「何を上映するか」の編成にも個々の色が出ますから、スタッフさんが独自の見解を語ってくれそうですね。
入江:コンシェルジュ的なところがありますよね。「うちはこういう作品をかける」というメッセージがあったり、「この作品とこの作品を順番でかけると良い」だったり。そういうところが面白いんですよね。