韓国の撮影で目の当たりにした、労働環境の“差”
Q:クラウドファンディングのページ内で「コロナ禍で苦境にある全国のミニシアターで本作を公開すること」「コロナ禍で仕事を失ったスタッフ・俳優と、商業映画では製作できない映画を作ること」「未来を担う若い学生たちと新たな日本映画を完成させること」の“3つの夢”を掲げられていますよね。最後の「学生たち」の部分に込めた想いを、教えてください。
入江:若いスタッフが減っているというのは、結構前から日本映画界の問題としてずっと挙げられているんですよね。ちょっと前の言葉で言うと「3K(きつい、汚い、危険)」的な職場というイメージがあって、どんどん若い世代が離れていっている。これは自分自身も変えなければならないと思っているところです。
2019年に韓国で『聖地X』(2021年公開予定)という映画を撮ったのですが、韓国は若いスタッフがいっぱいいるんですよ。夢があるから、みんな集まってくるんですよね。寝る時間も食事の時間もちゃんと確保されているし、報酬ももらえるし……。そういった光景も見ているので、ますます危機感が強まっていました。
今回はコロナ禍で大学が休みになった子も多かったので、基本的に来るもの拒まずで受け入れていましたね。リモートで授業があるから、撮影の合間に2時間だけ抜ける、みたいなこともありました(笑)。
『シュシュシュの娘』© Yu Irie & cogitoworks Ltd.
Q:そういったことが許容されるものづくりの現場って、すごく開かれているし素敵ですよね。
入江:ただ、これは僕自身がすべて見ていて、把握している自主映画だからこそできたことでもあるんです。これを商業映画でどれだけ普及していけるかがこれから勝負だなと思います。白石和彌監督や深田晃司監督は意識的に動かれているイメージがありますが、そういうことを僕ら世代ももっとやっていかないといけない。
Q:先ほど韓国のお話がありましたが、あらゆる面で進んでいますよね。
入江:本当に衝撃でしたね。ちょうど『聖地X』のアフレコのタイミングで『パラサイト 半地下の家族』(19)がアカデミー賞を獲ったことも覚えています。ポン・ジュノ監督の現場は、みんなが絶賛しているんです。日本では最近、全然そんな話を聞かないんですよね。これはやっぱり、多くを学んで盗める部分は盗んでいかなければと痛感しましたね。
Q:それこそ、「黒沢清監督の現場は健全な時間に帰れる」がニュースになってしまう国ですもんね……。
入江:僕自身も、反省しています。商業映画で撮りたいものを追求していくと、どうしても拘束時間が増えていってしまう。本当はそこで、スタッフのオフの時間や生活のことも考えていかなければならないんですよね。
『シュシュシュの娘』では、撮影時間も短い日は1日3時間くらいにとどめていました。体力が落ちて免疫力が下がったら元も子もないですし、クラウドファンディングの支援もあったので、「できるだけ休みながら撮ろう」とは伝えていましたね。