スタンダードサイズ、モノラル音声に込めた想い
Q:きっと、その熱は伝播していくと思います。『シュシュシュの娘』だと、フォーマットもすごく面白いなと感じていて、画面はスタンダードサイズ、音声はモノラルに設定していますよね。
入江:スタンダードサイズはずっとやりたかったんです。ある映画でそのチャンスがあり、カメラマンと相談したのですが、配給会社に難色を示されて実現しなかったんですよね。国内の映画館だと、カーテンがついていないところも多くなって、スクリーンによっては小さく見えてしまうんです。お客さんが損した気持ちになってしまう、ということもあって……。
ただ、最近のA24の作品だとスタンダードサイズのものも多いんですけどね。
Q:『mid90s ミッドナインティーズ』(18)や、『ライトハウス』(19)、『WAVES/ウェイブス』(19)など、アスペクト比にこだわっている作品が多いですよね。それこそ、入江監督はジョナ・ヒルと対談していましたね。
入江:はい。去年リモートで、3回くらい対談させていただきました。『mid90s ミッドナインティーズ』は全編16ミリフィルムで撮影していますよね。『シュシュシュの娘』はせっかく自主映画だし、僕もやりたかったスタンダードサイズに挑戦しようと考えたんです。
あと、僕はシネマヴェーラ渋谷が好きでよく足を運ぶのですが、スタンダードサイズで国内外の色々な作品を上映していて、慣れ親しんでいるというのもあります。僕の中で「ミニシアター」といえばスタンダードサイズという感覚があって、じゃあ今回は音声もモノラルにしてみたらより面白いんじゃないかと思い立ちました。普段だったら5.1chサラウンドで音を設計するのですが、今回はロースペックの方に向かいたかったんです。
『シュシュシュの娘』入江悠監督
Q:それも「ミニシアターを回る」というゴールが故ですよね。そこに向かって、作品のテイストやトーン、フォーマットも変えていくというアプローチがとても面白いです。
入江:今回の録音技師は、『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(17)などでもご一緒した大ベテランの古谷正志さんです。彼が話していたのは「モノラルだから音が貧しいということではないんです」ということ。「逆にシンプルで力強い音だったらこちらの方が適しているし、お客さんの想像力を刺激するという意味でも合っていると思う」と言っていただけました。確かに、みんな過剰に情報を与える方を目指しがちだけど、逆に引くのはありだなと感じましたね。
Q:お客さんが客席に安穏と座るのではなく、自ら「聴こう」とする状態を誘発するわけですね。
入江:そうそう。ミニシアターって、劇場によっては少しボリュームを下げて上映しているところもあるんですよ。そうすると、聴こうとするから集中力が上がるんですよね。
僕自身、ド派手な超大作も大好きなのですが、音楽がずっと鳴っていたり、与えられすぎるとなぜだか眠くなってしまうところがあって。何なんだろうなと不思議なんですが(笑)、抑制されているとこっちから取りに行かなきゃと思って、頭が冴えるんです。
Q:能動性って、大事ですよね。自分が客席にいる“意味”がそこに生まれる感じがします。
入江:わかります。いちお客さんとして、そうした映画との向き合い方が好きですね。