1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『シュシュシュの娘』コロナでは止まらない。入江悠監督を突き動かした「インディペンデント魂」【Director’s Interview Vol.133】
『シュシュシュの娘』コロナでは止まらない。入江悠監督を突き動かした「インディペンデント魂」【Director’s Interview Vol.133】

『シュシュシュの娘』コロナでは止まらない。入江悠監督を突き動かした「インディペンデント魂」【Director’s Interview Vol.133】

PAGES


映画館のない地域で育ったことが、原体験



Q:1月末に行われた「ミニシアタークラブ」のイベントで、『SRサイタマノラッパー』でミニシアターの“熱”を感じられたのが監督としての原体験だった、と仰っていました。ぜひ、お客さんとしての原体験も教えてください。


入江:かつて僕が育った埼玉県深谷市は文化がない町で、映画を見に行くためには遠出しないといけなかったんです。いまでこそ深谷シネマがありますが(2002年に開館)、それこそ「何もない町に育った」が原体験としてこびりついていますね。だからこそ、いま全国にあるミニシアターが存続してほしい、という想いは強いです。


「ない」って、外に出ないとわからないんですよ。僕自身都内のミニシアターに通うようになって「こんなに豊かで便利なんだ」と初めてわかりました。


Q:僕も福井の田舎出身なので、非常によくわかります。ちなみに、都内での思い出のミニシアターや作品はありますか?


入江:僕が東京に出てきた頃は、ちょうど『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99)が日本公開されたときで、シネマライズが全盛期だったんですよ。その印象は強いですね。


Q:シネマライズは2016年に閉館してしまいましたが、存在感は絶大でしたよね。渋谷を歩いていると大きな看板が目に入って、しかもメジャー大作ではなく、トガッたインディペンデント系の映画だったりして……。まさに“文化”だったなと思います。


入江:『π(パイ)』(98)を上映しているときに、地面にたくさん「π」を書くというプロモーションをしていたり、そういった面白い試みをしていましたよね。カルチャーってこうやって拡がっていくんだと思いましたし、あの頃の渋谷は最先端という感じがしました。


作り手としては、やはり池袋のシネマ・ロサですね。個人的にDVDを持って「上映してくれませんか?」とお願いしたところから始まって、全国まで広がったのが大きかったです。


同時に、ミニシアターの興行についても考えるようになりました。MIGHTY役の奥野瑛太くんが、地元の北海道で上映されると聞いて劇場を訪れたらお客さんが自分しかいなくて映写技師が上映を止めた、という話をしていたのですが、そうすると「売上ってどれくらいなんだろう」「劇場スタッフの生活は大丈夫かな」と考えるようになって、劇場で上映されるハッピーさだけではない責任感がのしかかってくる。


劇場と作り手は、運命共同体だと思います。その劇場で何をかけるかを支配人の方たちが考えて、うまくいかなければ生活にも直結しますし。そうしたことを知った機会でしたね。


Q:そうしたご経験が、ミニシアター支援へとつながっていったのですね。


入江:そうですね。やっぱり、ミニシアターへの思い入れは強いです。地元から遠かったぶん、行き帰りの道中のことも鮮明に覚えていますね。そうした全部が映画体験として、自分の中にあります。


余談ですが、『SR サイタマノラッパー』のときに、当時15歳の男の子が観に来てくれたんです。ラップが好きな子で、「初めてミニシアターに来ました」と語っていました。凄く嬉しかった思い出なんですよね。今回の『シュシュシュの娘』でも、そういった機会を作ることができたらと願っています。






製作・脚本・監督・編集:入江悠

1979年、神奈川県生まれ、埼玉県育ち。03年、日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。09年、自主制作による「SR サイタマノラッパー」が大きな話題を呼び、ゆうばり国際ファンタスティック映画オフシアター・コンペティション部門グランプリ、第50回映画監督協会新人賞など多数受賞。その後、同シリーズ「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム」(10)「SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者」(12)を制作。「劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ」(11)で高崎映画祭新進監督賞。その他に「日々ロック」(14)、「ジョーカー・ゲーム」(15)、「太陽」(16)、「22年目の告白」(17)、「ビジランテ」(17)、「ギャングース」(18)、「AI崩壊」(20)、「聖地X」(21)など。ドラマ演出はWOWOW時代劇「ふたがしら」(15)、「クローバー」(11)、「みんな!エスパーだよ!」(13)、「ネメシス」(21)等。



取材・文:SYO

1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema



『シュシュシュの娘』

2021年8月21日(土)より渋谷ユーロスペース他にて順次公開!

制作プロダクション・配給:cogitoworks Ltd.

© Yu Irie & cogitoworks Ltd.

PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『シュシュシュの娘』コロナでは止まらない。入江悠監督を突き動かした「インディペンデント魂」【Director’s Interview Vol.133】