『スウィート・シング』アレクサンダー・ロックウェル監督 魔法の時間だった80〜90年代のNYインディペンデントシーン【Director’s Interview Vol.158】
子供たちのピュアなスピリット
Q:『スウィート・シング』では「アルドフォ・ロロ監督作品」とクレジットが出ます。アルドルフォ・ロロは『イン・ザ・スープ』でスティーヴ・ブシェミが演じたインディーズ監督の名前ですが、スペルが一文字違っていますよね。
ロックウェル:一文字変えた理由はね、ある時バーで会った男に教わったたんだ。「シチリア島ではアルドフォのスペルはこうだ」って。アルドフォ・ロロはイタリア系の設定だけど、シチリアから来たってことにすれば面白いなと思ったんだ。
クレジットに「アルドフォ・ロロ監督作」と書いたのは、この映画にアルドフォのスピリットを感じたから。若い頃にはある意味でジェームズ・ディーン的な「絶対にこうしなくちゃ!」という思い込みがあった。僕は今でもそういう若者のエネルギーが好きだし、『イン・ザ・スープ』のアルドフォは「何だって作れる」という気持ちを持っていたことを思い出したんだ。それが僕のモチベーションを後押ししてくれたし、この映画はまるでアルドフォが撮ったような気がしたんだ。
『スウィート・シング』©️2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED
Q:『スウィート・シング』では、2013年の中編『Little Feet』に続いてもう一度、ご自身の子供であるラナとニコで映画を撮りたかったそうですね。どちらの作品でも育児放棄された子供たちを描いていますが、このテーマにこだわる理由は?
ロックウェル:それは、子供のもつ詩的さ、純粋さに関わっているんだ。現実というジャングルに放り込まれていると、突然、彼らの輝きに気づかされる。形はいろいろだけど、大人たちの野蛮な世界で、彼らのピュアなスピリットが際立つんだと思う。
この映画に、他人の家に押し入った子供たちがダンスをしたり走り回ったりして遊ぶシーンがあるよね。僕は困難な状況に、あの子供たちの感覚、エネルギー、若さを持ち込みたかったんだ。子供だけの話じゃない。ヴァン・モリソンが「I will never glow so old again」(映画のタイトルにもなった曲「Sweet Thing」の歌詞)と歌っているように、同じ感覚は僕らにも残ってる。僕は大人になること、野蛮な世界の一部になることを拒否したい。でも純粋さは壊れやすく、この世界でそうあり続けるのは難しい。僕はこの映画で、そのコントラストを描きたかったんだ。