『スウィート・シング』アレクサンダー・ロックウェル監督 魔法の時間だった80〜90年代のNYインディペンデントシーン【Director’s Interview Vol.158】
役者ではない町の人々を起用した理由
Q:『スウィート・シング』で個人的に好きなシーンがあります。序盤の車工場で、ストーリー上では重要じゃないおじさん同士が見つめ合うショットを繋げていて、あの時の空気や時間の流れが好きです。あのショットはどんな意図で入れたのでしょうか?
ロックウェル:その指摘は興味深いね。あの男たちは、映画を撮影したニューベッドフォードという町で釣りをしていたんだ。ニューベッドフォードはアメリカの中でもとても興味深い場所だと思う。彼らはアフリカのカーボベルデからやって来た漁師たちで、ポルトガル語を話すんだ。ベッドフォードには彼らのコミュニティがあって、僕はそのミックスされた土地柄が気に入ったので、彼らにぜひ出演して欲しいとお願いしたんだ。
さっきの音楽の話にも繋がるけれど、僕にはそれがとても自然で、正直なことに思えた。ある音階がどんな音楽を奏でるのかを伝えるように、作為のない動物みたいな彼らの姿を映画の最初に入れたかったんだ。彼らの自然体でピュアな存在感が、この作品の基調になっていると思うよ。
彼らを気に入ってくれたのなら、ベッドフォードを案内して引き合わせたいね。ひとりはバーを経営していて、デューク・エリントンがかかっている最高の店なんだ。貧しい地区ではあるけれど、本当にいい人たちだよ。
『スウィート・シング』©️2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED
Q:ウィル・パットン演じる父親と一緒にサンタクロースの扮装をする仕事仲間も、役者ではない地元の人だそうですね。
ロックウェル:君はあの町の連中がすっかり気に入ったんだね! 彼は、僕が家具を買おうと車を走らせている時に見つけたんだ。僕は安くてショボい家に住んでいて、安い家具を探していた。彼は家具屋の店主で、歯がなくて、喋ってももごもごと何を言ってるのかさっぱりわからない。この映画にピッタリだと思ったんだけど、たぶん「クソ映画なんて!」と言っていたから一度は断られたんだと思う(笑)。でもギャラを払うと言うと、「いくらだ!?」って。「今50ドル払う、撮影現場に来てくれたらもう50ドル」と伝えたらOKしてくれたんだ。
でも、当日になると姿を見せない。探してもどこにもいない。どっかで飲んだくれてたんだよね。やっと見つけ出して、なんとかサンタの衣装を着せた。設定は冬だけど、実際の撮影は夏で、ものすごく暑い日だった。
面白いことに、彼はウィル・パットンだけは見覚えがあった。「コイツは『アルマゲドン』(98)に出てた!」と叫び出し、すっかり混乱して、完全に怖気づいてしまった。素晴らしい俳優であるウィルは、僕にひとつだけ確認した。「ヤツはナイフを持ってるか?」って。「もしナイフを持ってるなら俺にもよこせ」と言うんだ。「ナイフなんて持ってない」と答えると、ウィルは男と向き合い、その場でセリフを教えて、「この通りに言え!」と叫んで男にセリフを言わせたんだ。怯え切った男は悲鳴をあげて家から飛び出し、車で走り去った。実はそれ以来一度も会ってないんだ(笑)。
撮影は途中だったけど、ウィルは「問題ない」と言って、その男が目の前にいる体で残りのシーンをすべてこなしてしまった。ウィルは最高だよ。とてもプロフェッショナルな俳優だけど、ワイルドな状況も一緒に楽しんでくれるし、場をコントロールする術も心得ている。
僕はワイルドな現場が好きで、それってジョン・カサヴェテスの映画から学んだことなんだ。カサヴェテスを父親のように思っているし、映画作家としての僕のメンターだよ。