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『牛久』トーマス・アッシュ監督 日本人の「病」をえぐり出す驚愕のドキュメンタリー【Director’s Interview Vol. 186】

©Thomas Ash 2021

『牛久』トーマス・アッシュ監督 日本人の「病」をえぐり出す驚愕のドキュメンタリー【Director’s Interview Vol. 186】

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ここ数年、入管施設に収容された外国人への暴力行為をメディアで目にすることが増えている。収容された外国人は、母国に強制送還されれば迫害を受け、命を落とす可能性がある人も多い。送還を拒否すれば強制的に長期間収容され、中には精神状態が不安定になり自死を選ぶ者もいる。(※場合によっては、送還を拒否しなくても長期収容されるケースもある)


なぜそこまで人権を無視した行為がまかり通るのか。そして収容所では何が起こっているのか。その驚くべき実態を克明に記録し、白日のもとに晒したのが映画『牛久』だ。監督は撮影が禁止された東日本入国管理センター、通称「牛久」に収容された人々と面会を繰り返し、その様子を隠しカメラで記録した。


本作が提示する収容者の生の声は、彼らが何の罪もない一人の人間であるというごく当たり前の事実を今更のように思い出させる。そしてそのあまりに過酷な現実を目撃した観客は、愕然とするだろう。本作の監督トーマス・アッシュに、制作の裏側からこの国に巣くう「病理」まで、存分に語ってもらった。


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現在進行形を記録するための「隠し撮り」



Q:トーマス監督は福島原発の事故にまつわる子供たちの現実を追った『A2-B-C』(13)など、社会問題に鋭く切り込むドキュメンタリーを発表しています。今回、入国管理センターの問題を取材したきっかけは何だったのでしょうか。


トーマス:入管施設に収容されている人の支援活動をしている教会の友人がいて、その人に誘われて初めて牛久(東日本入国管理センター)に行ったのがきっかけです。入管に関しては、新聞やニュースで知っている程度だったので、ここまで深刻な問題になっていることに驚きました。


まず初めに感じたのは「収容されている人が、本当に死んでしまうのではないか」という不安です。それを防ぐためにも証拠を残すべきだと思い撮影を始めました。問題を解決するために一番大切なのは、皆が知ることなので、撮影したものを映画として公開しようと思いました。


『牛久』©Thomas Ash 2021


Q:本作で大きなウェイトを占めるのが、監督と収容者との面会室での会話です。これはすべて隠し撮りで収録されていますが、最初から隠し撮りすることを決めていたのでしょうか。


トーマス:仮放免というルールで一時的に出所した人に「入管での収容生活はどうでしたか?」「はい、あの時は大変でした」という取材は出来ます。でも、その大変さは過去形の表現では伝わらない。今現在、進行形で起きている事実として記録を残すべきだと思いました。「隠し撮りで映画を作ろう」という意図はなく、結果的にその手法しかなかったんです。


Q:入管施設では撮影は認められていませんが、その映像を映画として公開することの法的なリスクはないのでしょうか。


トーマス:入管施設で撮影をしてはいけない、という法律はありません。それは施設が独自に決めたルールです。撮影自体は違法ではないので、私が施設のルールを破ってしまったという形ですね。ですが、収容されている方々はそもそも犯罪者でもなく、彼らに自分の意思を伝える自由も認められていない、その理由がわかりません。





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