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『THE BATMAN―ザ・バットマン―』マット・リーヴス×大友啓史“同い年”監督スペシャル対談 完全版【Director's Interview Vol.194】
バットマンの誕生秘話には絶対したくなかった
大友:人間のパーソナルな部分に切り込むというビジョンを実現するうえで、「バットマンが2年目である」という設定が非常に効いていました。今回のバットマンは、まだ精神的に余裕がなく未成熟ですよね。それが新鮮であり、複雑さも醸し出していて面白い。この設定はどうやって生まれたのでしょう?
リーヴス:まず、バットマンの誕生を描く“オリジンもの”にはしたくありませんでした。既に何度もやられていますから。バットマン映画を作るということは、バットマン映画史に足を踏み入れること。既に素晴らしいバットマン映画は作られていますから、何か自分ならではの、決定的なバットマン作品を作ることが必要不可欠になります。まぁ、元々僕はそういうタイプで、パーソナルな作品を作ることができなければ、どこにカメラを置いたらいいのかもわからないのですが(笑)。
オリジンものには絶対したくない、でもやはりバットマンを中心に据えたストーリーにしたい……。そこで生まれたのが、2年目という設定です。今回のバットマンはキャリア初期でまだ完璧ではなく、より人間くさいキャラクターです。弧を描いていくように彼をエモーショナルなストーリーに放り込むことで、「覚醒」や「変化」を描くことができると考えました。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC
そこで目を向けたのが、ボブ・ケインとビル・フィンガーによる原作のバットマン誕生時からあったノワールもの、探偵ものの要素でした。本作をサイコロジカルミステリー風にし、バットマンが探偵として事件を調査していくことで、少年時代に自分の家族を奪ったゴッサムの腐敗や歴史を発見していく道のりを描くことにしたのです。
2年目にすることで、まだ自分の存在意義や方法論に対して手探り状態である、かつ大友監督がおっしゃったように精神的な未熟さも描けます。つまり、人間的な短所もあるキャラクターです。ジキルとハイドのように、バットマンを突き動かしているのはまだ自分の中の影/闇の部分でありながら、彼自身はそのことを理解していない。
犯罪がひしめくゴッサム・シティに対して、自分が思うように影響を与えられていない理由の一環がどこにあるのか――。彼はやがて、「復讐」が必ずしも自分が発信するべきメッセージではないのだということや、それどころか自分が意図していないような影響を街に及ぼしていることも理解し始めるのです。