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『THE BATMAN―ザ・バットマン―』マット・リーヴス×大友啓史“同い年”監督スペシャル対談 完全版【Director's Interview Vol.194】
闇を作り出す照明&斬新なゴッサム・シティのこだわり
大友:また、陰影を強く意識した照明も秀逸です。闇の中に人物が溶け込んでいて、“見せない”ことにこだわっている。これだけのビッグバジェットムービーで、こうした演出を久々に観て大いに心を揺さぶられました。
リーヴス:今回、バットスーツを着ているとき用の照明をデザインしました。ブルース/バットマンは、影/闇を使って人々の恐怖心を煽ろうとしている。そのため、全てのシーンにおいて撮影監督のグレイグ・フレイザーと光と影について協議し、精査しました。光が当たりすぎて「ちょっと待て、それだと明るすぎる」なんてこともありましたね。バットマンはある意味マジックのトリックなわけですから、光を当てすぎると幻想が崩れてしまうんです。彼は影/闇の中から現れて、魔法をかける。それを成立させるうえで、照明は非常に重要でした。
同時に、僕にとって“光”はエモーショナルなものでもあります。グレイグと初めて組んだのは『モールス』ですが、夜間のシーンで2人の子どもが中庭で会うものがありました。そこで使ったナトリウムランプには黄金色の日没に近い質感がありながら、夜の灯り特有の厳しさのような風合いもあり、今回にも活きています。柔らかさやロマンスを感じさせつつも、ハードでエッジーな部分もある。ゴッサム・シティもそういったイメージで作り上げていきました。
『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC
大友監督:なんて面白い話なんだろうか……(笑)。ゴッサム・シティについてもぜひ、聞かせてください。いままでのバットマンの作品では、ゴッサム・シティはどこかの街――特にニューヨークを連想させるものでした。しかし『THE BATMAN―ザ・バットマンー』のゴッサム・シティは、これまでとは大きく違いますよね。強いて言うなら70~80年代のニューヨークといいますか、僕たち外国人からすると地下鉄に乗るのも怖いような、あの頃の雰囲気がありました。
リーヴス:そうなんです。ゴッサム・スクエアのようなものを撮りたかったのでタイムズ・スクエアで撮影したいとは思っていましたが、ニューヨークそのものにはしたくありませんでした。ニューヨークあるいはシカゴを思い起こすような、でもどちらの場所でもない、そんな街にしたかったのです。
そのために、街の基礎にゴシック建築が使われているエリアを探しました。リバプール、グラスゴー、シカゴなどですね。それらのゴシック建築をベースにしてCGでより現代的な建物を足していきました。その結果、「タイムズ・スクエアみたいな感じがするけど、どうも違う。だったらここはどこ?」となるゴッサム・シティが出来上がりました。
そして大友監督が触れていた70年代のニューヨークの空気感は、まさにその通りです。実は僕自身がタイムズ・スクエアで強盗に遭った経験もあって、当時のニューヨークはとても危険な場所だという印象がありました。市民が窮乏していて、常に全てが崩壊するんじゃないかという空気が漂っていましたよね。ゴッサムもまた、同じぐらい問題を抱えている街であるべきだと考えました。
80年代に出版されたフランク・ミラーとデヴィッド・マーズキャリーによる名作「バットマン:イヤーワン」に、これだ!と思うものがありました。さっき話した70年代映画のようなトーンです。暴力にまみれ、衰退に向かっている街でありながら、絶望感と生命感にもあふれた街にしたいと考えました。
ゴッサマイト(ゴッサムの住人)たちがアイスバーグ・ラウンジに通うのは、ダンスやキラキラする照明の中で全てを――人生における絶望感を忘れたいからです。根本的に、ゴッサム・シティは絶望を抱えた街でなければいけないと思っていました。