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『THE BATMAN―ザ・バットマン―』マット・リーヴス×大友啓史“同い年”監督スペシャル対談 完全版【Director's Interview Vol.194】

(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC

『THE BATMAN―ザ・バットマン―』マット・リーヴス×大友啓史“同い年”監督スペシャル対談 完全版【Director's Interview Vol.194】

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バットマンとリドラーは、同じコインの裏表の関係



大友:ヴィランの複雑さも、非常に面白かったです。バットマン自体がヴィランであってもおかしくない、リドラーとの相似性を感じました。非常に現代的な社会への復讐心といいますか、どこから矢が飛んでくるかわからないSNS時代の闇が、リドラーのキャラクターに反映されていましたよね。どういう風にこのキャラクターが作られたのでしょう?


リーヴス:リドラーにおいては、コミックスの中でも特に、連続殺人事件を描いたジェフ・ローブとティム・セイルの「バットマン:ロング・ハロウィーン」にインスパイアされています。先ほど、「ノワール×探偵ものにしようと思った」とお話しましたが、バットマン=世界一優秀な探偵を描きたいのであれば、ゴッサムの腐敗に関する真実を暴いてゆく連続殺人事件を彼が捜査するのはどうだろうと考え始めたんです。


そして僕にとって重要なのは、それをどうやってパーソナルな物語にしていくのか。そこで、犯人がバットマン宛てにメッセージや手紙を残したらどうかと思いつきました。それはバットマンにとって非常に不穏なことだし、街の腐敗を描くだけでなく、自らのオリジンも絡んでくるような方向へ彼を導くきっかけにもなる。また、パズルや暗号を残していくというのは、ゾディアック事件を想起させると思いました。あの犯人像は、リドラーにも割とハマるんじゃないかと感じたのです。


大友:あぁ、なるほど。ゾディアック事件も60~70年代に起こりましたね。


リーヴス:そうなんです。ダークな連続殺人犯でもあり、ある種の政治的扇動者でもある、今までとは違うリドラーを描くチャンスだと思いました。リドラーはゴッサム・シティの不正を暴こうとしており、何故この街がこれほどまでに腐敗しているのかについて政治的なメッセージのようなものを持っているのですが、同時に彼の個人的な動機も絡んでいることも、やがて明らかになります。政治的な主張のように見えるけれど、実は個人的な復讐を欲するバットマンと通じるところがあるのです。



『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c)DC


そこで、バットマンとリドラーを合わせ鏡のように描いたら面白いのではないかと思いました。バットマンは「自分には越えない一線がある」と思いたがっていますが、法を自らの手に委ねて他者を裁いているし、自分がどれだけ闇につき動かされているのか自覚していないため、自らの危うさに気付いていない。逆にそこを自覚しているリドラーは、一線を越えることに何の呵責も感じない。2人の使命には近いものがあり、両者はある種の対話をしている。視覚的にもそれを反映させたいと思いました。


映画の冒頭でタイトルが大きく表示された後、誰かがこっそり覗き見をしているかのような呼吸音や音が聞こえますよね。『THE BATMAN』と表示されたばかりだから、観客はそれがバットマンかと思うかもしれないけど、実はリドラーだということがわかる。バットマンもまた他の場所で誰かを監視しており、それがリドラーなのかと思った観客は、こっちがバットマンであると気づく。そうやって2人の間にある繋がりを見せようと考えました。2人には精神的な繋がりであり、同じコインの表と裏なのです。


大友:冒頭の仕掛け、非常に面白かったです。


リーヴス:ありがとうございます。また、ご指摘いただいたSNSも僕にとってはとても重要な要素でした。70年代映画にインスパイアされつつ、今日僕らが経験していることとも繋げたかったんです。リドラーがどういう風に社会とコミュニケーションを取るのかを考えた時に、SNSによる群衆の扇動というアイデアがハマる気がしました。


それもまた、ゴッサム・シティという現実世界には存在しない街を、あたかも存在しているかのような、現実と地続きのような世界として感じてもらいたかったからです。現代の観客に響く、現代性のある物語にするためにも、SNSは非常に効果的でした。





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