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『バブル』監督:荒木哲郎×音楽:澤野弘之、両者の絆が生み出す相乗効果【Director's Interview Vol.204】

『バブル』監督:荒木哲郎×音楽:澤野弘之、両者の絆が生み出す相乗効果【Director's Interview Vol.204】

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“エモーションの頂点”に不可欠な、劇伴と音響のバランス調整



Q:おふたりのコラボレーションの特長でいうと、やはり先ほどお話に挙がった「エモーション」があるかと思います。『バブル』でも、シーンと劇伴の盛り上がりがシンクロしており感情を揺さぶられましたが、おふたりは「心を動かすものづくり」において、どのような点を重視されていますか?


荒木:僕はシナリオ段階である程度意識しますが、感情の波の頂点に、全部の頂点を集めるんです。物語のエモーションの頂点に一番いいセリフが来て、動きも音楽の盛り上がりも最も激しく、爆発などの轟音もそこにかぶる。すべての頂点をそこに集めることで攻撃力を高めるというのが自分のやり方です。作戦でもなんでもなく、ただただ単純に気持ちがいいから(笑)。


音響監督の三間雅文さんにはいつも「音楽もセリフもSE(サウンドエフェクト。環境音)も全部聞かせるのは無理だ」と言われるんですが、「いや、数コマずらせばやれるはず。映画館のスピーカーを壊すつもりでやって」とお願いしています。『バブル』はまたちょっと違っていて、今回重視したのは恋愛のエモーション。破壊力を高めるというより、むしろきらびやかで爽やかな方向を目指しました。音楽は大いに主張してほしいけど、SEはほぼ存在しないようにできたらとお願いしたシーンもありますね。



『バブル』(C)2022「バブル」製作委員会


Q:『バブル』の音響は、圧巻でした。泡や波、風の音、走ったり跳ぶ音と劇伴が立体的に「全部聞こえる」設計になっていて没入感がすさまじかったです。どういったバランスで調整されたのでしょう。


荒木:音楽の当てどころは絵コンテの時点でほぼ決まっていて、もらった曲を当てはめながら絵コンテを描いていったところもあります。そのうえで「ここは曲の聴かせどころ、ここはSEの聴かせどころ」といった区別をつけていきました。


Q:「聞こえすぎる」特殊な聴覚を持っているがゆえにヘッドフォンを常時装着している主人公のヒビキにとっても、“環境音”は重要な要素ですね。


荒木:そうなんです。例えば「浮島」という場所が登場しますが、あそこはヒビキにとって一番居心地の良い空間。となると、ヒビキが好きな音の塊でなくてはいけない。風が吹いた音、水が流れる音、鳥のさえずりといった自然音をバランスよくつけてもらって、さらに「安心感を呼ぶ音」として、泡がポコッとはじける音を作ってもらっています。風音についても「ヒュオー」とか「ヒュー」という寒々しい音ではなく、「サワサワサワ……」といった安らぎを感じられる葉音で、といったリクエストを行いました。


余談ですが、今回は聴覚過敏を抱えた上で、映画のバリアフリー上映等の活動をしていらっしゃる南さんという方にお話を伺ったうえでシナリオや絵コンテを作っています。その際に、好きな音と嫌いな音の傾向を教えていただきました。どういう音が苦手かというと、踏切の遮断機や喫茶店でウェイターさんが皿を重ねる音、扉がバタンと閉まる音など、街の人工音が多かった。それに対して、気が休まるのは自然音だそうなんです。そのアドバイスを音響監督の三間雅文さんに共有して、バランスを調整していきました。




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