ジャンルを横断する玉手箱のような音楽を目指す
Q:荒木監督は「ミニマムな澤野さんが見たい」とオーダーしたそうですね。
荒木:はい。今回はこれまでご一緒した作品に比べてカタストロフィ(大変動)や世界が崩壊していないから、出来事のサイズが小さいんです。だからそのスケールの中で澤野さんの音楽を聴きたいです、今回は青春ラブストーリーです、とお願いしました。具体的なことは特に何も言いませんでしたね。僕自身が音楽の言葉を持ち合わせていないので(笑)。企画・プロデュースの川村元気さんの方が「ストリングスが……」とよっぽど具体的なことを話されていました。僕はちんぷんかんぷんです(笑)。
澤野:(笑)。とはいえ音楽的な部分で細かい指示があったわけではなく、ハミングの音色や民族楽器の要素があるとハマるかも、といったアイデアをくれた感じです。
荒木:川村さんのアイデアは「なるほどな」と思えることが多かったですね。SEに関してもそうですが、「作品のユニークポイントを作る」という視点なんです。ここはみんなに伝わりやすい“フック”になるからみんなで考えよう、といった提案をしてくれる感じなのですが、ハミングもそうだしシャボン玉のはじけるときの音を「他にはない特別な音じゃないといけない」とこだわっていました。そこで、音の中に人の息を混ぜることにしました。
『バブル』(C)2022「バブル」製作委員会
Q:民族楽器の部分、『青の祓魔師』にも通じるかも?と思いました。
澤野:僕自身、『バブル』に限らず民族楽器の音色が好きで使うことが多いですね。そんなに器用じゃないから、楽器を替えてサウンドが広がっているように聴かせるという部分もあります。あとは民族楽器を使うと、音色が特徴的なぶんリフになったり、楽曲のグルーヴにも影響を及ぼすところがあります。『バブル』だと、アンダーテイカーの曲にすごくマッチしたと感じています。
荒木:ちょっと怪しい雰囲気が出るんですよね。
澤野:そうそう。『甲鉄城のカバネリ』だと、天鳥美馬もそういった感じでアプローチしました。自分はロックやEDMが好きでそういう音楽もちりばめるのですが、それをメインでやっている人のようにはできない。だからこそ浅く広くではないですが「これカッコいいじゃん」というものをどんどん取り入れて、玉手箱のような音楽になったら面白いんじゃないかなという感覚があります。
荒木:ジャンルを飛び越えていくところが、澤野さんの音楽の良さですよね。『甲鉄城のカバネリ』も「和ですよ」とは言ったけど、やりたい放題だった(笑)。
澤野:そこまで意識しなくていいというお話もありました!(笑)
Q:『甲鉄城のカバネリ』自体が、スチームパンクと和の融合でもありますし。
荒木:そうですね。作品の世界観を体現してくれたと思います。