『カバネリ』『進撃の巨人』では生まれなかったダンスシーン
Q:『バブル』の楽曲の制作期間はどれくらいだったのでしょう?
澤野:作ったものをガッとまとめたら実際は1〜2カ月なのですが、2年前くらいから動いてはいました。
今回の僕の作業としては、最初に荒木さんと作品の大まかな話をしてからイメージアルバムのような感じで「ヒビキのテーマ」といったようなものを10曲くらい作るところからスタートしました。その後に映画本編に添った音楽メニュー表を1回出していただいて、「この曲はイメージアルバムだとこれに該当しますね」といった話をしながら、新たに必要になった曲を作りました。そして、最終的に画とタイミングを合わせるための調整段階で作編曲家のKOHTA YAMAMOTOくんに入ってもらい、場面場面で調整してもらったり、必要に応じてアレンジを入れてもらう形で進めていきましたね。
荒木:シナリオからイメージアルバムを作るアプローチは、久石譲さん×ジブリ作品もそうですね。まずこちらがシナリオを作り、イメージアルバムをもらってから絵コンテ作業をしていくと、先ほどお話しした「全部の頂点を持ってくる」もできますし、音楽が醸し出すものに乗っかってシーン自体も色づいていきました。
『バブル』(C)2022「バブル」製作委員会
浮島でヒビキとウタがダンスをするシーンは、音楽から見えるものに素直に従いましたね。シナリオでは「ヒビキとウタが楽しそうに踊る」としか書かれていないのですが、音楽がインスピレーションを与えてくれました。本当にうまくいって、この映画で俺が作るべきシーンはこれだったんだ!と手ごたえがありましたね。『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』では出来なかった、この作品でなければ生まれなかったシーンだと思います。
Q:先ほどの「今回は出来事が小さい」というお話にも通じますが、巨人やカバネにいつ襲われるか、といった命の危険が今回はないですもんね。
荒木:そうそう。そういう状況の作品だからこそ生まれたシーンですよね。もしこれが敵を殺すタイプの作品だったら、やっぱりその場面がクライマックスになると思います。ふたりで協力プレイして化物を倒す場面になるのですが、今回は違う。アクションではあるけど、ラブが絡んでいるんです。“ラブパルクール”が、他の作品にはない『バブル』のユニークポイントだと思います。自分で観ていても、「このバランスは初めて観た」と感じました。