監督と作曲家は、切っても切り離せない関係だ。その関係性は作品の世界観を体現する存在であり、エモーションを増幅する役割も担う。映画・アニメーション・ドラマ好きの中には「この監督とこの作曲家の“箱推し”」という方も多くいることだろう。
『ギルティクラウン』(11 TV)『進撃の巨人』(13 TV)『甲鉄城のカバネリ』(16 TV)と10年以上“共闘”し続けてきた荒木哲郎監督と作曲家の澤野弘之は、まさに黄金コンビ。どちらかが一方的に与えるのではなく、インスピレーションを与え合う形で協働してきた。その最新タッグ作が、『バブル』(5月13日公開)。巨大な泡に包まれ、重力異常が発生した東京を舞台に、少年少女の冒険が描かれる物語だ。
ふたりの出会いから、劇伴の考え方、演出論、さらには仕事との向き合い方まで――。作品の制作秘話と共に、大ボリュームの対談をお届けする。
Index
- 10年以上、監督×作曲家として共闘
- “エモーションの頂点”に不可欠な、劇伴と音響のバランス調整
- 激しめにやるくらいで、初めて人の心に響く
- ハンス・ジマーとダニー・エルフマンから受けた影響
- ジャンルを横断する玉手箱のような音楽を目指す
- 『カバネリ』『進撃の巨人』では生まれなかったダンスシーン
- 観る側との信頼関係が、説得力を生む
10年以上、監督×作曲家として共闘
Q:まずはおふたりの出会いから教えて下さい。もともと『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン) RE:0096』(16 TV 監督:古橋一浩)をご覧になった荒木監督が澤野さんに惹かれ、『ギルティクラウン』で組む流れになった、と伺いました。
荒木:よくご存じですね。先輩が演出した『機動戦士ガンダムUC』をマッドハウスの会議室で観ていたら、起動シーンがあまりにもアガるんです。こんなにズルい劇伴があったらエモーションは跳ね上がるし、「いいなぁ、俺もこんな人に仕事をお願いできたらな。無理だろうけど」と思ってたら、当時作品を作り始めていたProduction I.G 6課(のちにスタッフが独立しWIT STUDIOを設立)が『戦国BASARA』(09 TV)ですでに澤野さんとご一緒していたんですよ。
そこで自然と『ギルティクラウン』の際にも「澤野さんはどうですか」とお話が来て。これぞ幸運ですよね。ぜひ!とお願いさせていただきました。その時のお仕事の感触がお互いに良くて、『進撃の巨人』『甲鉄城のカバネリ』、そして『バブル』につながっています。
『バブル』(C)2022「バブル」製作委員会
澤野:僕はちょうどそのころ『青の祓魔師』(11 TV)をやっていて、そのプロデューサーから「新しい作品に澤野さんをプレゼンしたい」と言われたのが『ギルティクラウン』でした。そこで荒木さんとお会いしたときに、作品を通して音楽をすごく丁寧に使ってくれるということが伝わってきたんです。僕の音楽を聴いてくれているうえで「ここにこの楽曲を使いたい」というのが画面から伝わってきて。作曲家としてはすごくやりがいのある仕事でしたし、『ギルティクラウン』後もご一緒したいなと思っていました。
覚えているのは『ギルティクラウン』の打ち上げのとき、荒木さんに「次はどんな作品をやるんですか」と聞いたらなんとなく濁していて「ちょっとファンタジーをやると思います」と言っていたこと。「そうか、ファンタジーだったらまたご一緒できるかわからないな」と思ったら『進撃の巨人』でした(笑)。
荒木:(笑)。
澤野:だいぶでかい括りで説明されたなと思ったけど(笑)、嬉しかったです。
Q:『甲鉄城のカバネリ』もファンタジーといえばファンタジーですね(笑)。
荒木:そうそう(笑)。『バブル』もそうだし、ファンタジーばっかりやってます(笑)。
僕は澤野さんにもらった曲をとにかく聴き込むんです。仕事場への行き帰りや仕事中など、共に過ごしているうちにシーンが浮かんだり、「この曲はあそこにハマるかも」と考えるのがすごく好きで、もはや趣味(笑)。それで実際に画に当ててハマったときに、びっくりするくらいそのシーンの快楽が跳ね上がる瞬間はたまらないですね。