ハンス・ジマーとダニー・エルフマンから受けた影響
Q:澤野さんは劇伴音楽では、ハンス・ジマーやダニー・エルフマンに影響を受けたと伺いました。
澤野:はい。僕は元々オーケストラ曲を作りたくて映画音楽を目指したのですが、ちゃんと音大を出て、クラシックをバリバリ学んできたわけではないんです。ハンス・ジマーもそうで、アカデミックなことを学んできたのではなくポップスから出てきて、自分なりにオーケストラをどう聴かせるか追求している。打楽器を駆使しつつ、シーケンスと融合させることによって壮大な、それでいて独自のオーケストラの楽曲を作っている彼の存在は、僕にとって光でした。エモーショナルなサウンドの作り方は、すごく影響を受けています。
ダニー・エルフマンは、わかりやすいメロディを書くスゴさもそうなのですが、彼の場合メロディがなくてもリフやフレージングで「ダニー・エルフマンだ!」とわかるサウンドを持っているところに憧れます。人って「あの人の曲だ!」と当てるときにメロディに注目しがちだけど、実はアレンジメントのところでオリジナリティを出している、というのはダニー・エルフマンから学びました。
そして2人とも、毎回常に実験的で、なおかつ飽きさせないで進化しているところに惹かれます。
荒木:澤野さんご自身の比重としては、メロディとアレンジのどっちが重いんですか?
澤野:僕はどっちもやりたいと思っています。たとえば「メロディだけ書いて」と言われたらもちろん嬉しいですが、僕は正直メロディに弱いところをアレンジで補っていて、アレンジに弱いところをメロディや音圧で補っているので、両方やって初めて自分の音楽が人に聞かせられるものになっていると考えています。
荒木:なるほど、いまの話すごくわかります。アニメづくりにおいては「コンテ」という作業とその後にアニメーターさんと一緒に行う「処理演出」があるのですが、どっちもやらないと俺のやつにはならないんだよな、というのは感じていて。他の人が処理演出をやるとピントがズレちゃうし、その感覚と似ている話だなと思いました。
澤野:そうだと思います。
『バブル』(C)2022「バブル」製作委員会
Q:『甲鉄城のカバネリ』の無名のリップの光沢や、『バブル』のウタの瞳など、止め画で見たときに美しさで感動してしまう、というところが荒木監督の作品の一つの特長かと思います。それらも、いまお話しいただいたようなこだわりから生まれるものなのですね。
荒木:そうですね。ディテールも動きも含め、そのカットがどのくらいの情報量を持つのがふさわしいかには丁寧なコントロールが必要。そこまでが自分の仕事だと思っています。
Q:動きの部分でいうと、今回は過去作以上にパルクールが描かれています。ちょっと『YAMAKASI ヤマカシ』(01 監督:アリエル・ゼトゥン)を思い出したのですが、どういった映像を参考にされたのでしょう?
荒木:僕も『YAMAKASI ヤマカシ』は観ましたが、劇映画よりも実際のパルクール映像の方が参考になりました。特に、今回アドバイザーで入っていただいているZENさん(日本人初のプロ・パルクールアスリート。『HiGH&LOW』シリーズにも出演)の技が詰まった映像ばっかり観ていました。アニメーションにしていくにあたって、回る動作やジャンプするときの腕の振り上げ方など、とにかくリアル志向で作っていったからこそ、ZENさんの存在なくしては無理でしたね。
今回の舞台は“嘘もの”なので、動作まで嘘にしたら許容量を超えると感じました。それで徹底的にリアルにこだわり、ZENさんの技リストに番号を振ってコンテに「13番」などと書き込みました。それを基に、各アニメーターがZENさんの映像を何度も見返して、「足をつくときはどこから?」などをひたすら研究して描いていったんです。